閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

森村桂『それでも朝はくる』(中公文庫,1984年)
ISBN:4122010896
ISBN:412201090X

相変わらず体調悪い.風邪がもう一週間.風邪ではなくて別の悪い病気ではないかとの不安がよぎる.朝9時半まで寝たのに,昼食後また3時間ほど昼寝.身体が重い.怖い.

昨日暇つぶしに古本屋で購入した森村桂の上記の本を読了.
森村桂の本は『天国に一番近い島』を,ニューカレドニアに旅行した6年前に読んで,その素直なものの捕らえ方とくったくのなさにさわやかな感動を覚えたほか,最近,古本屋で見つけた二冊の紀行文(沖縄と日本のいろいろな地方を訪ねたもの)を読んでいて,いずれもけっこう楽しんでいた.70年代後半には彼女の著作のブームがあって,本屋の一角にはコーナーができていて常に森村桂の本が平積みされている状態だったという.今は彼女の本は書店ではほとんど目にすることがなくなった.軽井沢でケーキ屋をやっているという.
彼女の素直でまっすぐで,それでいて芯のある感性は,ある種の理想的なお嬢様の天真爛漫さを具現していて,それが多くの人を魅了した.しかも彼女の視線は美しいものだけではなく,貧しきもの醜いものにもしっかりと向けられているところにも好感を持てる.ただこうした「健全」な彼女のイメージは,いつのまにか彼女のこころを縛り付けるものとなっていたようだ.

独身時代に書かれた『天国に一番近い島』には当然全くみられないのだが,結婚後に書かれた紀行エッセイにはどういうわけか「ダンナさま」と若干古臭い呼称で配偶者が登場し,ダンナさまに対する「のろけ」みたいな記述がちょくちょく出てきてそれが鼻についた.またこの前後に彼女が書いたエッセイは『結婚志願』だの『お嫁に行くなら』だの露骨に少女趣味的な結婚願望にこたえるものが多い.

『それでも朝がくる』には,この「ダンナさま」との最終的には破綻した結婚生活の怨念がこもっている.読者としては幸せな結婚生活の裏側の真実をのぞき見るようなゴシップ的なくらい愉しみを得ることができる著作である.「ダンナさま」は冷酷で自分勝手な悪人として描かれることで森村の復讐はとげられているのだが,森村自身の醜悪なエゴイズム,人間の甘さも公平に描かれている.

当時の森村のような「スター」を配偶者とすることの難しさ.僕は妻に対して必要以上に威圧的にふるまうことでかろうじて自分のプライドを保つことができた「ダンナさま」の苦しみがちょっとだけわかる気がする.そして森村自身もそのことはずっと気づいていたはずだ.

現在無職で将来もいまだ不安定な自分が,妻に対してどこかやさしくなれないのと,少し似ている.