閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

スパニッシュ・アパートメント
フランス,2001年
監督:セドリック・クラピッシュ
http://www.foxjapan.com/movies/spanish/
劇場:日比谷シャンテシネ
キャスト:
ロマン・デュリス
オドレイ・トトゥ
ジュディット・ゴドレーシュ
評価:☆☆☆

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クラピッシュは最近のフランスの監督の中でも気に入っている監督で,これまで『パリの確率(1999)』『家族の気分(1996』『猫が行方不明(1996) 』『青春シンドローム(1994)』『百貨店大百科(1992) 』など日本で公開された作品のほとんどは観ている.
シニカルな味わいの近未来SFである『パリの確率』以外,どの作品もフランスの日常的風景に焦点をあて,ある意味凡庸で陳腐な人間たちの日常のディテールを丁寧に描く.
どれも僕にとっては楽しめる作品だったのだが,みな「佳作」といった感じで,観客をぐいぐいとひっぱるような虚構の大スペクタクルを作るような人じゃない.みな星三つ半という味わいの映画ばかり.人生の情けなさ,凡庸さが持つせつない輝きを,生活臭のする風景の中で描くのがこの監督の十八番である.ドラマはなく,丁寧な日常的描写のシークエンスをセンスよく重ねていくのがスタイルなので,受け付けないひとは受け付けないだろう

バルセロナのアパートでの学生の共同生活の一年におこった悲喜こもごもを描いたこの作品も佳作.登場人物の心理のディテールの書き方,ある局面に対するリアクションの描写がうまい.また起きる事件にもそれなりのリアリティがある.
学生時代に留学生活を送ったことのある人間は,「たまらない」せつなさを感じるはずだ.若い人間,留学という浮かれた雰囲気でありがちな未熟さ,醜さ,甘えなども,この映画では如実に描かれている.僕のような中途半端な留学生活しか送っていないようなものでさえ,ノスタルジーを刺激されぐっとくるような場面がいくつかある.
個人的には心の芯が暑くなるような佳品.ただ人に勧めるのは,自分の留学生活に対する自己陶酔的なノスタルジーを告白してしまうような気がして少し恥ずかしい.

甘ったるい青春時代.クラピッシュの視線はこうした若い時代のおろかさに対し冷酷である一方,それを心の奥では肯定している.