閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

青いバラ

最相葉月(新潮文庫,2004年)
青いバラ (新潮文庫)
評価:☆☆☆

実現不可能の代名詞である「青いバラ」を主軸に,日本のバラ栽培の第一人者だった鈴木省三の職業人としての生き様,バイオテクノロジーの問題について迫る.
前作の「絶対音感」に比べると,「バラ」という素材に感心を持つ層が限定されているせいもあり,インパクトにかける.「絶対音感」における著者の目の付け所のよさ,取材の丁寧さに引かれつつも,この本に手が伸びなかったのは私自身が「花」に関心がないからである.園芸はよりマニアックな対象であるように思える.
しかし「青いバラ」を通奏低音にしつつ,日本のバラ栽培の歴史を追ったこのドキュメンタリーでも作者の目配りのよさは相変わらずである.しかし作者が本当にひかれたのは,バラ栽培師,鈴木省三氏の生き様であり,彼女が本当に書きたかったのものそこだろう.綿密な取材の姿勢は,作者の誠実な資質と知的なレベルの高さを示すものだが,「青いバラ」についてはそれがあだになってあまりにも広い範囲,深い領域に取材がおよんだため,作品としての焦点がじゃっかんぼけた感じになっているように思った.
しかしそれにしても,作者の徹底した取材姿勢は感嘆に値するものであるし,豊富な材料の処理の仕方,力強い踏みしめるような文体は魅力的である.