閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

不信のとき

有吉佐和子(新潮文庫,1975年)
ISBN:4101132097
評価:☆☆☆

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中年と老人の二人の浮気男が,最後の最後に手痛い報いを受けるはめになるお話.
70年代のサラリーマン風俗を描いた中間小説.源氏鶏太の作品の多くが,いまだ魅力を保ちつつも,古びてしまったのに対し,有吉佐和子のこの手の小説はまだそのリアリティを失っていない.とはいうものの,貧しさと社会階層が歴然と存在していた時代の日本の女性の宿命に対する従順さと切なさは,この小説でもキーになっていた.
小説の大部分では,昭和の浮気男の粋で軽やかな浮気生活を,むしろ肯定的とさえ思えるような視点で描き,浮気をされてしまう女性についての有吉の筆致はむしろ冷淡で,残酷に思えるほどだ.それが最後の最後で二人の浮気男の転覆ぶりへの極めて効果的な伏線になっている.
有吉佐和子は常に意地悪だなぁ.