閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ドッグヴィル

製作年度:2003年
製作国・地域:デンマーク
上映時間:177分
監督:ラース・フォン・トリアー
出演:
ニコール・キッドマンポール・ベタニークロエ・セヴィニーローレン・バコールパトリシア・クラークソン
場所:飯田橋ギンレイホール
評価:☆☆☆☆

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アメリカの架空の辺境の田舎町,ドッグヴィルに,ある日ギャングに追われた一人の美しい女性が迷い込む.この女性の存在が,静謐な村の生活のバランスの中で押さえつけられいた村人たちの醜いエゴイズムを次第に浮かび上がらせる.
セットもロケも使わず,村は広大な体育館の床に記された書割りだけで示される.建物を区切る壁もなく,机などの小道具が並べられているだけ.役者はいわばニ次元的な舞台装置の中で人工的で硬質な,演劇を演じている.
トリアーの作品はこれまで『奇跡の海』とビヨークが出演した『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の二本を見ているが,いずれも僕にとっては後味の悪い作品で,退屈はしなかったものの,あまりいい印象は持てなかった.無垢で純粋な女性が,不条理な虐待にあってひたすらいじめられる,といパターンは,今日見た『ドッグヴィル』にも踏襲されている.聖なるものが穢されている過程に感じる被虐的快感は,トリアーの作品のキーワードのように思う.僕は以前見た二作に対してはそうした被虐趣味が「気持ち悪」かったし,美しい魂を持つ映画の主人公の女性にも全く感情移入できなかった.
ドッグヴィル』を今日観てようやくわかったことは,トリアーの作品は(少なくとも僕が見たものについては),すべて寓意劇であり,登場人物はすべて生身の人間ではなくアレゴリーであるということである.三本目にしてようやくわかるとは...演劇的かつきわめて虚構的な舞台を作って,架空の村を創造した今回の作品では,トリアーのねらいははっきりしたし,アレゴリー劇としての完成度も増しているように思った.
見かけに反して実はわかりやすい「芝居」である.しかしあえてこうした「冒険」に出て,かつ成功してしまうトリアーの勇気と才能には感服.
主演のニコル・キッドマン,僕と同い年みたいだが,コケットでじつに魅力的な女優である.