閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

すばらしき愚民社会

小谷野敦(新潮社,2004年)
すばらしき愚民社会
評価:☆☆☆☆

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時評集.時折みせる「逆上」ぶりは芸の域に達したような感じ.
エキセントリックな攻撃性が持ち味であるが,僕は小谷野の言説にみられる道徳性への執着というものにも魅力を感じている.周辺の政治的動きや知的流行とは意識的に距離をとり,あくまで己の知的判断力をよりどころとするような姿勢に共感する.根本的に自己の知性への信頼感が欠如しているため,周りに流されやすく,自己の判断の軸が揺れ動きがちである僕は,小谷野の意固地とも言えるような強靱で唯我独尊的な精神のありように魅かれる.
2ちゃんねる批判についての章の中で,「笑う側に立つことによって己れの自尊心を守ろうとしている」若いインテリたちの態度を批判している.笑われて傷つくことを恐れないような開き直り,いさぎよさは今の僕にも切実に必要とされるものであるような気がする.
権威にまどわされず,くだらないと思うものはくだらないと明言でき,自己誤謬をいさぎよく認め,一貫ある言動を心がける,小谷野の著作ではこうした基本的な倫理的態度の重要性が繰り返される.子供じみた攻撃性の裏側にあるこうした「まっとうさ」感覚が,僕が小谷野の著作に魅かれる所以であるように思う.