閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

スローカーブを,もう一球

山際淳司(角川文庫,1985年)
ISBN:404154002X
評価:☆☆☆

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山際淳司の初期のスポーツを主題とするルポルタージュの佳作をまとめたもの.
戦いの場にある選手個人の内面の推移を丁寧に描写する.そのドラマティックな構成は,ノンフィクションとしての領域を,踏み越えた優れた修辞的「演出」が施されている.こうしたロマンティックな叙述スタイルは魅力的ではあるが,優れた文学的資質を持つ書き手にしか許されないスタイルでもある.
八編のうち『文藝春秋』に掲載されていたシングル・スカルの津田選手についてのエピソードはかつて読んだ記憶がある.このルポルタージュに限らず,山際はスポーツ選手に特有の孤独なダンディズムの要素を強調する.表題作,甲子園予選に勝ち進む進学校の二流投手の内面に迫る「スローカーブを,もう一度」のゲームの場面の緊迫感とラストのせつなさ.うーん,うなるほどの渋さとうまさ.