閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

フランツ・カフカFranz Kafka/前田敬作訳(新潮文庫,1971年)
城 (新潮文庫)
評価:☆☆☆★

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池内紀の新訳ではもっと滑らかな訳文になっているのだろうか.新潮文庫版の訳は,意図的なもののような気もするが,生硬な直訳調で滑らかに読み進めるというわけにはいかない.『城』には長大なセリフが多数含まれるが,そうしたセリフも常にきっちりとした訳文で表現される.1/12から読み始めてようやく読了.読み進めるのに時間がかかる小説だった.といっても難解であるわけではない.生硬とはいえ訳文の伝える内容は,うっとうしいほど几帳面で具体的で堅実.会話内容や物語展開のロジックの乱れもない.
にもかかわらず関心のない一方的な饒舌を延々聞かされているような記述の連続で,しばらく読むと頭がもうろうとしてくる.延々と続く寓意に満ちた悪夢.なるほどこの小説のイメージの喚起力は強烈だ.先日見た松本修演出の舞台が,小説が喚起するイメージの隅々まで汲み尽くした見事な実体化であることを改めて認識.しかしこのいつまでたっても醒める気配のない悪夢は,その「遊び」のなさゆえに重苦しく,強烈に退屈な世界でもある.