閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

クロノス・ジョウンターの伝説

梶尾真治ソノラマ文庫、2003年)
クロノス・ジョウンターの伝説 (ソノラマ文庫)
評価:☆☆☆☆

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キャラメルボックスの冬公演の原作となった作品。キャラメルボックスの公演には行こうか行くまいか決めかねていたところなのだが、通りがかりに時間つぶしに入った書店でこの本が平積みされていたので何となく購入してしまう。
クロノス・ジョウンターとはタイムマシンの一種。ただしこの装置を使って過去に赴いてもほんの数分しか滞在できない上、時間を遡航した反動で最初に装置に乗り込んだ時点よりも未来にとばされてしまうという欠点を持つ。特殊な装置を体に装着すれば過去での滞在時間を延ばすことができるが、せいぜい2,3日が限界となる。
このいかにも作為的で不自然な「しばり」は小説の中では、プラトニックでかつ強烈な恋愛感情の増幅の仕掛けとして用いられる。過去のわずかな時間の邂逅が恋愛を純粋で凝縮された感情に昇華させる。必然的な永遠の別れへの自覚があるからこそ、この恋愛はせつない。クロノス・ジョウンターを利用した三人の男女の物語の連作集。いずれの恋も非肉体的なプラトニックなものであるが、刹那のかりそめにしかならない恋愛がもたらす甘美なイメージそして自己犠牲の美しさに陶酔した登場人物たちはためらうことなくこの欠陥品のタイムマシンに乗り込んでいく。
肉体のない概念的な恋の理想像を描く恋愛小説。こうしたある意味非現実的な恋愛を描くために作者は欠陥品のタイムマシンを創造した。あまりにも甘すぎる作品ではあるが、こうした「タイムマシン」ものは、年をとり過去への郷愁がつのっていくにつれて、その甘ったるさにもかかわらず、いやその甘ったるさゆえ、共感を増していくのではないだろうが。