人情噺の歌舞伎化。ありえないようなうまくいきすぎのハッピーエンド。人物の性格も、振る舞いも喜劇的に誇張が施されているのだが、こうした「作り事」めいた仕掛けが気にならない。江戸時代の町人風俗の風情を巧みに反映させた各人物の類型化が見事であるし、お話の後味も実に爽快で嫌みなところがない。長兵衛を演じる幸四郎は、江戸職人のちゃきちゃくとした雰囲気を、喜劇的な類型のなかでうまく表現している。
いかにも嘘くさい噺だけれども、その嘘の心地よさゆえに抵抗を感じることなく乗っかってしまった感じ。観劇後の感覚は軽くて心地よい。