閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

おさん茂兵衛大経師昔暦(だいきょうじむかしごよみ)

近松の世話物。暦を作る大経師の女房さんが手代の茂兵衛と密通したため、姦通罪で処刑されたという、当時実際にあった事件を題材にしている。現代だと『週刊新潮』の「黒の事件簿」、あるいは渋谷で売春していた東電OLの殺人事件を題材にして書かれた小説のようなものか。西鶴も『好色五人女』の中でこの事件を取り上げているとか。
近松の作品の中では比較的マイナーな作品のようで、戦後の上演はこれが八度目に過ぎない。夜の部の演目の中では、個人的には一番楽しむことができた。
無邪気な善意でひきうけたちょっとした頼まれ事が、運命の悪意ある行き違いのせいで悪い方向へと人を押し流していくさまを描く。茂兵衛の人のよさと軽妙さ、女中お玉の無邪気さが、その後の悲劇的な出来事のコントラストとなっている。今日演じられた段は、この悲劇の発端となる部分だけを取り出したもの。この後の転落していく様が観られないのが物足りない。