閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

未亡人の一年

ジョン・アーヴィング/津甲浩治・中川千帆訳
未亡人の一年〈上〉 (新潮文庫)
評価:☆☆☆★

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物語の中では、相次ぐ死がその周囲の人びとの心を空洞化してしまう。肉親、恋人、配偶者の死に直面したこの小説の登場人物の多くは、その空虚感を埋めるために物語を紡ぐ作家となるが、心の空洞感は埋められることがないまま時が過ぎる。この小説は喪失感を抱えた人物たちの彷徨の物語である。
数十年と時がたち、悲壮な記憶の痛みが和らぐことでようやく、当事者たちは再会を果たす。その喪失感の出発点に立ち戻るラストシーンが感動的。
登場人物の中では人妻との一夏の恋に生涯捕らわれてしまうロマンチストの三文小説家に共感を覚えるが、主人公といってよいルースの行動・心理にはほとんど共鳴するところがなく、中盤は「長さ」を感じてしまう作品だった。