閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

書替本 歌舞伎 客者入門

戯作:左内
戯画:ひらめ
発行:円卓倶楽部、2003-2004年
評価:☆☆☆☆★

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私家版の冊子。天・地・人の三冊組。1992年にモード学園出版局から出版された『MODEはじめてBOOK 歌舞伎』に加筆訂正を加えたもの。mixiの歌舞伎関連のコミュニティで紹介されていて関心を持ち、著者にメッセージを送って購入を申し込む。三冊で1200円。序文にあるように「正しい歌舞伎観客指南書」。代表的演目の紹介に終始する歌舞伎入門書とはかなり性格が異なり、粋な観客になるための「見栄講座」となっている。著者の祖父は劇作家の小山内薫。日本の新劇の祖であり、先日歌舞伎座で見た『息子』の作者である。
文章は軽快で読みやすいが内容はきわめて辛口。田舎もののにわか観客を容赦なく嘲弄しこきおろす。歌舞伎初心者の僕も、「通」からするときわめて野暮ったい観客であったことがわかり恥ずかしくなる。都市、とりわけ東京の伝統芸能である歌舞伎、庶民的な芸能で親しみやすいものだと思っていたのだけど、やはりそれなりの約束事はあるもんだ。こうした約束事を知らなくてもそれなりに楽しめる敷居の低さが歌舞伎にはあるけれど、スノッブないやらしさはあるとはいえ、この本にあるような知識は知っていた方が歌舞伎鑑賞を格段に楽しめることは確かだと思う。
内容は観劇のマナーやtipsが中心だが、演目鑑賞の際知っておくとよいポイントなどの記述も興味深い。歌舞伎座公演の演目構成の原則や筋書の「読み方」なども詳しくて参考になる。著者はかなりの守旧派でマナー関連についてはかなり小うるさい感じもあるけれど、「ほう」「なるほど」というため息が漏れるような歌舞伎鑑賞のこつが満載のきわめて「実用的」な本だった。野暮な田舎観客への差別的言辞多し。
粋な道楽として芸能に親しむのは大変だ。