閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

児雷也豪傑譚話(じらいやごうけつものがたり)

黙阿弥の原作だが、実質的には新作に近い翻案。発端の幕を含めると、四幕十場で構成される。原作をすっきりと整理してわかりやすくしたとのことだが、場のつながり、時間の経過、登場人物の行動原理等すべてあきれるほどダイナミック。つなぎの静かな場を間におきながら、荒唐無稽なストーリーを派手なスペクタクルで魅せる。
第一幕の第四場の場の大らかなばかばかしさにはしびれる。ウルトラマンの特撮的を思わせるような大蛇、大ナメクジ、大ヒキガエルの着ぐるみがだんまりで「たちまわり」を演じたあとで、人間の姿に戻った大蛇丸が鉄砲でヒキガエルの地雷を撃つ。するとヒキガエルがぱかっと背中でわれて、そこから鷲に乗った児雷也が飛び立ち、宙乗りで退場していく。呆然するようなナンセンスを堂々と見せ場として提示するところがすごい。
二幕目一場の笑劇仕立てもよいアクセントになっている。菊五郎、そこまでやるかって感じ。
現代風にアレンジされた歌舞伎であはるが、過剰なサービス精神に泥臭い大衆芸能としての歌舞伎の姿をみる。下品でグロテスクではあるが、バロック的な劇的エネルギーに満ちた舞台。
主役級の三人、松緑菊之助、亀治郎はそれぞれ大熱演で魅せる。松緑の悪役ぶりはスケール感があるし、ほとんどの場で出ずっぱりの菊之助の立役姿も力強い美しさを放っていた。
筋書にある轟夕紀夫氏の文章が興味深い。『児雷也』は歌舞伎の演目としてはそれほど頻繁に上演されてはこなかったが、「児雷也」というキャラクターが中国の説話集から江戸・明治の草双紙に由来するこの物語が、昭和以降、映画、娯楽小説、そしてマンガやテレビの戦隊ものの中で幅広くかつ根強く息づいていることを要領よく紹介している。