閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

夏の夜の夢

ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー
The Royal Shakespeare Company
http://www.natsuyume.jp/
作:William Shakespeare
演出:グレゴリー・ドーラン Gregory Doran
美術:Stephen Brimson Lewis
照明:Tim Michell
音楽:Paul Englishby
出演:Miles Richardson, Bridgitta Roy, Bettrys Jones, Alice Barclay, Jonathan Slinger, Malcolm Storry
劇場:池袋 東京芸術劇場 中ホール
評価:☆☆☆★

                                                • -

RSCという「ブランド」を裏切らないレベルの公演で、舞台美術の自在な転換、背景に登場人物の影を投影する影絵的効果が目を引き、生演奏(?)の音楽の趣味もよかったけれど、今回の『夏の夜の夢』は僕には今ひとつものたりない公演だった。
10月に観たばかりのシェイクスピア・シアターのきわめて簡素でありながら、演出家の丁寧なテクストの読みが反映された様式感とリズムある『夏の夜の夢』の記憶が、今日の公演を観ながら蘇ってくる。僕がシェイクスピア・シアターの演出家の出口典雄だったら、今日のRSCの公演を観ながら「勝った」と心の中でつぶやいたのであろう。もっとも劇団のあり方や演出の方向性、趣味の問題に「勝ち負け」を言うのもばかげているのかもしれないが。
訓練されたよい役者を使い、それなりの予算を投じているだけあって、スペクタクルとしての見応えはRSCのほうが当然圧倒している。しかしテクストを読み込み、その中にあるさまざなな「対照」をきっちりと整理して、演劇的に見せる工夫という点では、今回のRSC公演は、出口演出の舞台を観たあとでは、いかにも弱い感じが僕にはする(「判官びいき」みたいな感情も多少はあるのかもしれないけれど)。
例えばこの芝居の中でも最もコミックな場面である、アーデンの夜の森で四人の恋人が一同に解する場面、ハーミアが媚薬に狂わされたライサンダーとディミトリアスにさんざんいじめられる場面の滑稽さはシェイクスピア・シアターのハーミア役の可愛らしい演技のほうが僕にとっては印象的だったたし、身長の低さを強調したギャグもうまく決まっていたように思う。ボトム役の俳優のとぼけた味も僕はシェイクスピア・シアターの日本人俳優に軍配をあげるし、作品の中での「余興」「蛇足」的な職人たちの素人演劇の組み込み方も出口演出のほうがスムーズに感じられた。またアテネ公爵とアマゾン女王の役者が、妖精王オベロンとタイターニアのカップルのニ役を演じるという出口演出のプランは、昼の世界と夜の世界、人間の世界と妖精の世界、現実の世界と無限の世界という作品内の二つの世界の裏表の関係、二項対立の世界観をより明瞭に、象徴的に描き出しているように思う。
というわけでRSCをみながら、一〇月に俳優座でみたシェイクスピア・シアターの地味な公演が浮かび上がるという逆説的な観劇となってしまった。
ただエンディングは華やかなRSC版のほうがこの作品にはより効果的に思える。妖精パックの観客にむかっての口上のような最後の科白はいつ聞いても感動的。