円・こどもステージNo.24
http://www.en21.co.jp/obakeringo.html
- 作:谷川俊太郎(ヤーノシュ『おばけリンゴ』(福音館書店)より)
- 演出:小森美巳
- 企画:岸田今日子
- 美術・照明:皿田圭作
- 衣裳:川本喜八郎
- 音楽:小森昭宏
- 劇中絵:和田誠
- 出演:小久保丈二、高橋理恵子、小森創介
- 劇場:両国 シアターχ
- 評価:☆☆☆☆☆
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1973年初演以降、何度か再演されている作品。4歳の娘と二人で観に行く。劇場客席前1/3は桟敷席となっていて、主に子供がそこで地べたに座って観劇。今回は親子ペア券を劇団で購入し、大人の僕は椅子席で、娘は桟敷席で分かれての鑑賞となった。
ヤーノシュの絵本『おばけリンゴ』は何ヶ月か前図書館で借りて読んだことがある。作家はポーランド人で、『おばけリンゴ』は1969年に翻訳されて以来版を重ねるロングセラー。
巨大なリンゴを育てるものの、売るに売れず困ってしまうさえない男の話。結末の展開が意外性に富む寓話的作品だが、民話風の話の中に「秘密警察」といった違和感ある登場人物が登場したりする変な味わいのある話である。
上演チラシにはこのヤーノシュ絵本の絵が使われていたので、この原作に基づく演劇化だと思っていたら、確かに登場人物や設定は原作には基づいているものの、内容はきわめて自由な翻案となっていて、谷川俊太郎作品と言ってもよい。
バンドの生演奏とともに演じられるミュージカル風の作り。小森昭宏の音楽のメロディーは親しみやすく、谷川俊太郎の詩のナンセンスなユーモアとよく調和していた。
役者陣もみなこなれた演技で、子供・大人ともどもを惹きつける。絵本原作にはないマママ役の高橋理恵子の仕草や台詞は、とりわけ可愛らしくて実に魅力的だった。
男がおばけリンゴを売りに行く縁日のシーンの演出では、祝祭的雰囲気に浸ることができたし、作品の格となる道具であるはずの「おばけリンゴ」を敢えて舞台上でものとして提示しないという決断に作品への志の高さを感じた(もっとも娘の想像力はちゃんと「おばけリンゴ」を「見て」いるのだ)。またリュウ登場のシーンなど「ハプニング」的要素の介入のさせかたも効果的だった。
上演時間は一時間40分ほど。子供は最初から最後までおおむね集中力を維持し、舞台によく反応していた。導入の仕掛けからして、子供の注意をさっと惹きつけ、何がこれからはじまるかわくわくとさせる工夫がされている。
一方で舞台上で発せられるメッセージは常に大人の観客も意識したものだった。台詞に巧みに寓意性を付与することで、大人と子供がそれぞれ同じ台詞から別々のメッセージを受け取ることができるような配慮がされている。そしてその大人向けのメッセージも、素朴ながら深く、しかもユーモアに満ちたものなのだ。
円・こどもステージはそもそも「大人もこどもも」楽しめる舞台創造を目指してはじまったとWebページにあるが、もちろんこれは簡単なことではない。こうしたフレーズで飾られる作品は、「大人が子供に一方的に読み聞かせたい」、ところどころ啓蒙的・倫理的なメッセージが見え隠れする、毒のない陳腐なファンタジーものであったりすることがままあり、子供が果たして本当に面白がっているかどうかはよくわからない作品だったりする。子供は無慈悲につまらないものを「つまんない」と投げ出すこともあるけれど、その逆に大人の顔色をうかがってたいして面白くないものでも「面白がっている」ふりをすることがあるようにも思う。
逆に子供にはやたら受けがいいけれど、大人にとってはひたすらつまらないという類も多い。
子供が小学校低学年ぐらいまでは、外に遊びにいくときは大人と同伴が通常だと思うので、一緒に過ごす時間はできるだけ親子一緒に楽しめるイベントを共有したいものだけど、なかなかそううまくいくものではないだろう。お互いそう相手の思い通りにならないのは自分の子供でも同じこと。
『おばけリンゴ』は「子供もおとなも対象」とすることを謳う作品で数少ない成功作、傑作だと思う。娘とは公演終了後、「再会」したのだが、その娘の表情は本当の「演劇的感興」にあふれていた(ように思う)。そして僕はおそらく娘以上にこの作品を気に入ってしまった。作品の題材から言って娘と一緒でなければ観に行かなかった公演だが、もし娘と観に行っていないにしても、僕はこの作品に大きな満足を得たはずだ。
もっとも子供と一緒にみたほうがこの作品は楽しみが倍増する。観劇後に4歳の娘と劇の内容についてあれこれ話しする楽しさといったら。できることなら妻も連れてきて、家族で一緒に見たい舞台だった。妻は今日は3ヶ月の乳児と家で留守番だった。