閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

十二月大歌舞伎 昼の部

おそらく今年最後の観劇。
昼の部の最初の演目、「弁慶上使」(『御所桜堀川夜討』)は開演に間に合わず観ることができなかった。残念。お弁当をロビーで食べて二つ目の狂言の開演を待つ。

所作事の組み合わせ。勘太郎、七之助の息のあったコンビネーションの妙技を楽しむ。舞踊もスピードがあり、変化に富んだもので素人目にもおもしろい。音楽もよかった。

勘三郎が盲人弥市と秀吉を兼ねる。先代勘三郎が初演した時以来の演出だとか。どちらも浅井長政の妻、織田信長の妹で絶世の美女の誉れ高いお市の方玉三郎)に深い恋情を抱く。宮廷風恋愛さながらの卑屈な奉仕の愛で市を愛する対照的な身分の二人だが、二人とも結局お市の愛を手に入れることはできなかった.
秀吉は市の娘,茶々(七之助)を側室とすることで,その恋情を屈折したグロテスクな形で成就させようとする.盲人弥市は市の死後,零落し,乞食芸人となりさがる.彼もまた市への不可能な愛を,その娘,茶々を通して手にしようとしたのだ.
幕切れの演出はとてもせつない叙情に満ちた美しい舞台を提示する.乞食の弥市は三味線を手にかつて市と一緒に歌った歌謡を奏でる.すると背景の暗闇にぼんやりと弥市の歌にあわせて琴を弾く市の幻影が浮かび上がる.
勘三郎の軽妙でユーモラスな味がうまく生かされた弥市と秀吉の造形だった.グロテスクな面も含め被虐愛の切なさを美しく描く名編.ただし今日の上演は,どこかあっさり味で薄っぺらな印象もあり,物足りなさも感じた.
3幕構成だが,2幕の2/3を熟睡.うー,悔いが残る.確かに寝不足気味ではあったのだけど.歌舞伎座三階席は,あの狭苦しさにも関わらず,なぜか異様に眠りやすい.しかも「熟睡」できてしまうのが不思議.30分ほど意識を失って,目が覚めると気分がすっきり.