閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

飛び込む絵本V:くるくるグリムのおかしな家

  • 脚本:山下哲
  • 演出:高谷静治
  • 作曲:林あづさ、山本誠
  • 演奏:OCAアンサンブル
  • 美術:蛭田ハルミ
  • 衣裳:伊藤早苗
  • 照明:中山安孝
  • 指揮:河原哲也
  • 出演:こどもの城児童合唱団、平田正於舞踊研究所、岸辺バレエスタジオ、比嘉千古、吉村温子、近藤均、横山和彦、奥泉悦志
  • 劇場:青山 こどもの城青山円形劇場
  • 評価:☆☆★
                                                  • -

上演時間一時間四五分。バレエのシーンや合唱を取り入れた子供向けのミュージカル。
250人ほど収容可能に思われる円形劇場は親子連れで満員。
物語は三層構造になっている。放課後の子供たちが集まる絵本図書館、絵本図書館とつながっている天使の住む雲の世界、そして雲の世界から中に入り込む絵本『ヘンゼルとグレーテル』の世界。しかしこの三層のうちの二層、天使の住まう雲の世界と絵本図書館の世界は、どっちか一つだけあれば十分だった。物語としては現実の世界と絵本の世界が二つ設定してあって、不思議な国のアリスのように、絵本の世界に現実の人間が飛び込むというのが主要なモチーフとなっているからである。わざわざ三層の世界を設定したのは、バレエや合唱など出演シーンの確保する上で必要だったからだろう。
脚本は子供向け、それも小学校低学年ぐらいの子供を想定している感じ。大人の観客にはかなり物足りない内容。子供の善なる面ばかり強調された「建前」じみた健全さに満ちていて、提示されている世界が平板に感じられた。『ヘンゼルとグレーテル』の世界に入り込んだ子供が、その結末の残酷さに意義を唱え、より穏健な内容に書き直させるという、グリム童話の残酷性が強調されることが多い昨今の流れに逆行する内容も、個人的には気に入らない。
四種類の異なる音程のハンドベルを観客の子供に手渡して、合奏させることで劇に参加させるという創意には感心したが、観客の劇参加の工夫は他にも欲しかった。

これは好き嫌いの問題だろうが、子供が集団でニコニコ笑顔で演技するのが僕にはあまり心地よくない。短絡的だとは思うが、劇の穏当な道徳性とあいまって北朝鮮的なものを連想してしまうのだ。訓練された子供が集団でそれなりに見事な芸を披露するのは、見ていて何か痛々しい感じもする。表現の内発的喜びというよりはむしろ親の期待に応えてがんばろう!みたいなオーラを感じる、のはうがった見方をしすぎているのだろうけど。
子供が出ている芝居でも歌舞伎なら気にならないのだから反応の一貫性がないような気もしてしまうが。『飛び出す絵本』の場合、合唱団やバレエ教室の発表会の意味合いもあったのだろう。合唱、バレエはどちらもしっかりとした指導、練習のもとで練り上げられた演技・演奏のように思った。


娘は前半、雷とか魔女を怖がって「帰りたい」と言っていたが、ハンドベル演奏あたりから劇に入り込み、それなりに満足した様子。