閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

医学は科学ではない

米山公啓(ちくま新書、2005年)
医学は科学ではない (ちくま新書)
評価:☆☆☆☆

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臨床の実際においては、医療が一般に信じられているよりもはるかに医者個人の経験に依存するものであり、医療検査や新しい医療技術の導入は、医療上の必要性というよりはむしろしばしば医院の経営的な要請から行われいることが、わかりやすく示されている。
著者は神経内科の医師であり、現代医療の意義を完全に否定しているわけではないし、そのほとんどがまともな対照試験をへていない代替医療や健康食品などのいかがわしさへ注意を喚起している。しかし膨大な時間と予算、人材を使って科学的な検証が行われているはずの現代医療もまた多くの曖昧な領域が存在する。結局のところ、生病老死は人間の宿命であるのだから、医療に過大な希望を抱くことはせず、適度な距離感を意識すること、自己や肉親の治療について「死」を見据えた上で客観的にとらえることの重要性を、この著作は教えてくれる。
人間ドックの意義、実証に基づく医療の限界、健康食品や代替医療の効用など、医療・健康情報が氾濫し、多量の情報にふりまわされがちなわれわれが前提として知っておいた方がよい事実がわかりやすく説明されている好著。