閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ニッポン貧困最前線:ケースワーカーと呼ばれる人々

久田恵(文春文庫,1999年)
ニッポン貧困最前線―ケースワーカーと呼ばれる人々 (文春文庫)
評価:☆☆☆☆★

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「金がないのは首がないのもおなじ」とは西原恵理子のマンガで僕が知った言葉だが(歌舞伎の「河庄」でもこの台詞を聞いた),まさにこの言葉そのものの状態の人々,生活保護を受給している日本の貧困層を,行政官であるケースワーカーの視点から描いた優れたルポルタージュである.この本の中でも書かれているとおり,ジャーナリズムの福祉への視点は通常行政側の対応を批判する方向にしか向けられていない.あるいはそうでなければ生活保護の実態の一部を露悪的に拡大し,差別感を助長・承認する『週刊新潮』のようなスタイルである.こうした姿勢が固定することで,日本の福祉,貧困の現状認識をいかにいびつなものにしているかがこの著作を読むとよくわかる.
著者が採用した,日々業務として,時に業務を越えて,貧困と向き合わざるを得ない地方行政官の視線は,福祉の無惨な現状の本質を我々に伝えてくれるものとなっている.ここで紹介される生活保護受給者はほんとうに「どうしようもない」人たちが多い.しかしこういったどうしようもない状況に陥るきっかけはいたるところにあるのだ(病気,失業,離婚等).
生活保護受給は禁断の果実のような危険な甘みを持っているように思える.一度手にして,働かずにお金を得て生きていけることを知ってしまうと,ずるずるとそちらの側にひきずられてしまいそうな感じがする.貧困は自堕落な破滅への第一歩であり,一度その泥沼にはまりこんでしまうとそこから抜け出すには非常に強い意志とエネルギーが必要となるだろう.