閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ビジネスクラスで行くパリ

二年3ヶ月ぶりにパリに行く.二週間の滞在.学術振興会の研究補助金を利用しての文献調査を名目とする「出張」だが心は浮き立たず,現地での行動をいちいちプログラムしなくてはならないこと,友人たちと連絡をとること,フランス語でのコミュニケーションの面倒さを思い,むしろ気分は憂鬱.たかが二週間とはいえ,せっかくの春休みなのに,家族,特に娘と離れてしまうのも寂しい.海外旅行保険には一応加入できたが既往症には保険が適用されない.こんなときに限って心臓発作が起こったらどうしよう,などという不安も実は少し.前回パリで入院の際は500万円近くの保険金を使ったのだ.

午前8時過ぎに家を出る.日暮里で京成スカイライナーに乗り,午前9時半ごろに成田到着.宅配で送ったスーツケースを受け取り,受託荷物のチェックインカウンターへ.
幸運なことに,エコノミーが満席のため,ビジネスクラスへのアップグレードが適用された.ビジネスクラスへの搭乗ははじめての経験である.
空港の本屋で文庫本を二冊購入.

ビジネスクラスは新幹線のグリーン車よりはるかにゆったりとした作りになっていた.エコノミーの座席が新幹線の普通車の座席よりはるかに窮屈なことを思えば天地の差である.最初は幸運なアップグレードでビジネスに乗る僕がいかにも場違いな感じがして落ち着かない.おどおどとしつつも,最初で最後になるかもしれない「快適な空の旅」を満喫する.
食事も一皿一皿出てきて,ほぼレストランでコースを食べるのと変わらない.これだけゆったりしていると12時間の飛行時間での疲労は,エコノミーとは雲泥の差である.

飛行中は映画を見る.『風とともに去りぬ』を選択した.3時間40分の大作ゆえ,まさに長時間のフライトの時間つぶしにはぴったりである.この古典的傑作は未見だった.戦前の作品ながら,広大なスケール感,叙事詩的な骨太の展開の中で丁寧に描かれる繊細な恋愛描写,そして逆境にたくましく立ち向かうスカーレットの強烈な個性に引き込まれる.この人物像はある種の典型だが,ヴィヴィアン・リーの演技は,まさに物語人物の化身といっていいほどの説得力があった.力強い表現力に,往年の大スターのオーラの圧倒的魅力を知る.

映画を一本見ると眠気がおそってくる.何時間か熟睡.ほぼ水平の状態までリクライニングが倒れるのが心地よい.眠りから目覚めたあとは,集中力が乏しくなっていて映画をもう一本見る気力がない.空港で購入した文庫本を読んで時間をつぶす.

現地時間の午後四時前に予定通りシャルル・ド・ゴール空港の第一ターミナルに到着.スーツケースの重量が軽かったのでRERを使ってホテルに向かうことにする.ところが第一ターミナルがRERの駅と直接つながっておらず,巡回バスに乗って別のターミナルまで移動しなくてはならないことを忘れていて,空港内をうろうろして時間を空費.何回来ても,いつまでたってもおろおろとしてしまい,旅行初心者から脱することができないのがナサケナイ.フランス語の世界に入ってしまったことで若干緊張.

RERはパリまで8ユーロ.思っていたより高い.「ユィットユーロ?」と聞き返すと,「エイト!」と英語でいかにも不機嫌そうな声で怒鳴られる.いかにもパリっぽい歓待だ.早速気が重くなる.
パリ北東郊外の町のやばそうな駅にいちいち停車する列車を避けるため,二台,RERを見送る.以前スーツケースを持ってラッシュ時にRERに乗ってしまったことがある.列車が混雑してくると有無を言わさずスーツケースを網棚の上にのせられてしまい,降車時にえらく面倒な思いをしたのだ.

パリの北駅まではそれほどの混雑ではなかったが,北駅からメトロ五番線がラッシュ.空港でぐずぐずし,さらにRERを2台やり過ごしたことで,かえってメトロのラッシュにぶちあたる結果になっていたのだ.さっさとRERに乗っておけばこんなことにならなかったのに..無理矢理スーツケースと体をメトロ車内に押し込むような形となったが,乗車時間が短くて助かった.

予約したホテルのあるローミエル駅で降りると雨模様.ホテルにチェックイン.部屋は満室のようだ.予約がちゃんとできているかどうか不安だったが,名前を言うとあっさり通じた.五階の部屋.記憶にある部屋より古びた感じだが,文句は言えまい.
荷物の一通り整理した後,Cite de la musiqueまでぶらぶらと歩く.Cite de la musiqueで公演の案内をもらうつもりが今日は閉館していて黒人の係員に「何のようだ? あっちへいけ!」と追い返される.雑誌販売スタンドでZurbanを購入.相変わらず一回では誌名が伝わらない.かつて何度も通ったケバブ屋で食事.なつかしい味とボリューム.
公衆電話からパリ近郊に住むフランス人の友人に電話.電話でのフランス語の会話は苦手.しかも久々に話すので若干緊張してしどろもどろになるが,なんとか待ち合わせ場所を決める.日本語でも電話の締めは難しいが,フランス語だと尚更切り上げ方がわからない.

Monoprixで朝食のパン,爪切り,シャンプー,インスタントコーヒー等を購入する.ホテルに帰り,ホテルから別の在パリの友人に電話する.