閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

うっかりミス多発の日

午前10時前に起床.寝坊してしまう.朝食として一昨日購入したカップラーメンを食するがまずくてほとんど捨ててしまう.チョコレートをコーティングしたビスケットを朝食とする.何となくずっとおなかの調子が悪いのがいやな感じだ.今日は予定がたっていない.とりあえず国立図書館へ向かう.
図書館に向かうメトロの中でコルネイユの『嘘つき男』を読了.思った以上に面白かった.傑作.現代の感覚で楽しめる作品である.
図書館では『フランス語の歴史』の授業の詳細なシラバスを作成する.国立図書館は集中して勉強できるが,シラバス作成は案外手間取る作業で思ったほど進まない.

スペクタクルにも行かなければパリに来た意味がない.先日はオデオンに行ったもののキャンセル待ちが回ってこず結局無駄足となってしまった.滞在日数は限られているので今日見るスペクタクルは電話予約をすることにする.情報誌を検討し,宿泊しているホテルの最寄り駅の路線の終点にある劇場,BobignyのMC93で今日が初日のFalk Richter作『Nothing Hurts』を選ぶ.MC93は前回滞在時に何回か行ったことのある劇場.今回の作品については作者,演出家とも名前を知らなかったのだが,MC93はとんがった外国作品を上演する劇場で,作品の質は総じて高いという印象がある.開演は8時半からなので,6時過ぎに図書館を出れば,ケバブ屋で夕食を購入してからホテルにいったん戻って食事をとってから行っても,十分に間に合う.
午後6時前に図書館を出るが,クロークに預けた荷物を受け取るためのチケットを落としたことに気づく.チケットの番号もうろ覚えだし,何百人もの人間が荷物を預けているのだから,自分の荷物を取り戻すには大変面倒な手間がかかることは必至.それにもしチケットを拾った人間が悪い奴で,こちらの荷物を受け取って外に出てしまっていたらお手上げだ.鞄の中にはパスポートを入れたままだった.一気に憂鬱な気分になる.クロークで「実はあほなことをやってしまって,チケットを落としてしまったんです.確か番号は400番台だと思うのですが...」と切り出すと,あっさり荷物が出てきた.僕が落としたチケットを拾った人が,クロークにチケットの半券を届けてくれていたのだ.ほっとして汗がどっと流れる.
チケット探しでぐずぐずしているうちに時間をだいぶ食ってしまった.RERのC線でオステルリッツ駅まで行き,そこから五番線に乗り換えてホテルに行くという最短コースをとることにしたのだが,予定より遅れてしまったことにあせってしまいC線で逆の方向,郊外に向かう列車に乗ってしまう.しかもさらに悪いことに乗ったのは「快速列車」だった.いくつもの駅を通過し,最初に停車したのはZONE4のJuvisyというパリ南東の今まで行ったこともない場所.オルリー空港より南である.
パリ行きの列車が発着するホームを探してうろうろしていると,検札コントロールがうじゃうじゃ通路にいるではないか.幸い夕方のラッシュ時で乗降客が多く,全員をチェックしているわけではない.検札コントロールに捕まると言い訳無用でバカ高い罰金を取られてしまうことは必死.幸いラッシュ時で全員を検査しているわけではない.「おい頼むからおれを捕まえないでくれ.こんなことで罰金一〇〇ユーロとか言われると,おれはフランスを大嫌いになっちゃうよう」と心中で半泣きの祈りを捧げ,びくびくしながら検札コントロールのそばを通り過ぎる.幸い呼び止められることなく北駅に向かうRERのD線の列車に乗ることができた.ホテルについたのは7時20分になっていた.とんでもない遠回りをしたものだ.
ホテルの近くにあるケバブ屋でケバブを購入し,ホテルの部屋で急いで食べる.おなかの調子が悪い.ガスがたまってうっとうしい.一〇分で食事をすませ,メトロに乗る.
MC 93は五番線の終点の駅で降りればよい.ところが今日はぽかばかり.終点の一つ前の駅で降りてしまう.駅の名前の前半が,終点駅と同じBobignyなのだ.劇場についたのは開演15分前だった.

当日電話予約は僕だけだったのか,チケット窓口に行くと,受付の人は僕が最後まで言い終わるよりも前に「ナタメヤね」と答えて端末を操作しはじめた.しかしチケット発券のパソコンのシステムが故障していて発券できない.エンジニアを呼んでみたもののどうにもならず.どの席が僕のために割り当てられているかもわからないとのこと.発券カウンターにいた女性が「心配しないで.あなたの席はちゃんと用意できるから.私が席を確保できるよう伝えるから,ついてきて」ときっぱりとした口調で言う.とっさのトラブルながら機転が利く.僕に渡されたのは手書きの「natameya, 23euro」というメモ書きだけだったが,その女性スタッフがキップ切りのスタッフ,劇場入り口で客入れを担当してる男性スタッフにてきぱきと状況を説明する.結局開演直前まで客入れ担当のスタッフのそばにいて,客入れがひととおりめどがついた時点で空いた席に座るというはなはだ心細い事態になったが,結果的には前のほうの列の中央の絶好の席に座ることができた.客入れの男性スタッフも感じがいい.
芝居も面白かったが,今日はトラブル時のスタッフの判断の素早さと配慮が芝居よりも心に残る.いい気分でホテルに戻る.