閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

當世流小栗判官(とうりゅうおぐりはんがん)第一部

http://www.ntj.jac.go.jp/performance/10.html

  • 原作:近松門左衛門,文耕堂・竹田出雲,他
  • 脚本:奈河彰輔
  • 補綴・演出:石川耕士
  • 演出:市川猿之助
  • 美術:金井俊一郎
  • 照明:吉井澄雄
  • 出演:市川右近市川笑也,市川猿弥,市川段治郎
  • 劇場:九段下 国立劇場 大劇場
  • 評価:☆☆☆★
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「小栗判官」という言葉は耳にしたことがあったもののその内容については今日に至るまで知らず.もともとは近世以前の説教節の代表的作品として流布した説話であり,近松などによって文楽・歌舞伎の中に取り入れられ,特に上方歌舞伎で人気の高い演目だということを,今日の公演のプログラムで知る.
説教節という日本中世の語り物文芸の概要さえ,今日買ったプログラムの記述で知る始末.僕の日本の伝統芸能に対する知識の欠落は相当ひどい.こうした日本芸能に対する基礎知識を持っていた上で西洋中世文学を知ったなら,また新たな視点で作品を観ることもできたであろうに.説教節の代表的作品の一つである『山椒大夫』に基づく劇作品を今月末に前進座の公演で見る予定にしている.図らずもよい「予習」となった.
澤瀉屋の今回の公演は江戸時代のいくつかのテクストをもとに再構成された台本による上演.1983年の初演以来何度か再演されている澤瀉屋のレパートリーの一つ.今回の公演は二部に分かれ,今日は前半三幕四場を見た.第二部は月曜に見る予定.
全般的に主役の役者の見せ場を強調した演出になっていたが,僕にはくどすぎてリズム感に欠けるように思われた.また見せ場へのつなぎの場が単調で何度か意識を失う.
三幕のうち発端は状況説明の幕で特に見せ場なし.序幕は小栗判官が暴れ馬を手なずける場面が大きな山.二幕目は二場に分かれる.序幕で英雄,小栗判官を演じた右近が二幕目では三枚目の阿呆を演じて笑いをとる.時事ネタ,楽屋落ちを取り入れたギャグで客席は沸いたけれど,歌舞伎のお客は役者に優しすぎるように思う.英雄と三枚目という対照的な役柄を同じ役者が演じるといういかにも歌舞伎らしい趣向,出鱈目は好きだし,右近の三枚目振りも徹底した物だったけれど,ギャグのリズムがねばっこい感じがして僕にはあまり面白いとは思えなかった.第一部の切となる二幕第二場ではかつての主君,小栗判官への忠義ゆえ,命をかけて照手姫を守ろうとする段治郎演じる漁師浪七の立ち回りと壮絶な最期がクライマックス.この見せ場もくどすぎるように僕には思え,あまり愉しむことができなかった.食べ過ぎで胃がもたれるといった感じである.
歌舞伎的スペクタクルの詰まった舞台で,役者の見せ場を強調した演出ではあるが,スピード感にとぼしい舞台.第二部に期待.