閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

新潮劇院 創立10周年記念公演

  • 制作:新潮劇院

http://www.shincyo.com/index2.html

  1. 「孫悟空仙桃を盗むの巻」(『西遊記』より)
  2. 「鉄弓縁」(『英傑烈』より)
  3. 「挑滑車」(『岳飛伝』より)
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  • 演出・脚本:張春祥
  • 監修:李墨
  • 照明:斎藤茂男
  • 劇場:千歳烏山 烏山区民センターホール
  • 上演時間:2時間20分(レクチャーおよび休憩10分を含む)
  • 評価:☆☆☆☆★
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バランスのとれたよいプログラム.最初の「孫悟空」は場面設定しかない短い作品.孫悟空が桃や酒,食べ物を食い散らかすコミカルな様子を描写する役者の芸を味わう作品.二番目は茶屋娘の恋愛譚を主題とする台詞劇.美人の茶屋娘,娘の母,金持ちのどら息子,美男子の青年の四者の間の恋のやりとりを喜劇的に描写する他愛のない「ラブコメ」といった感じの作品である.中世フランスの「牧歌」の世界を連想させる.
娘の母とどら息子の従者は日本人役者が演じているのだが,日本人役者は日本語で台詞を喋る演出となっていた.ちょっと意表をつかれる感じだが,抑揚をつけ裏声で話される中国語の様式感ある台詞回しとうまくからんでいたように僕には思えた.ヒロイン茶屋娘を演じる廬思の,様式的な仕草や表情,声がコケットリーな魅力に満ちていて,何とも言えぬほど可愛らしい.
「挑滑車」は昨年11月に早稲田大学大隈講堂で観て深い感銘を受けた演目.豪華絢爛な衣裳を身にまとっての,アクロバティックでスピードに満ちた舞踊的かつ様式的な立ち回りは,観ていて思わず「すげぇ」とつぶやいてしまうほど華麗で力強い.たちまわりの構成は若干早稲田での上演と異なっていたように思えた.演技の緊張感と迫力も早稲田での公演のほうが勝っている気がしたが,これはこちらが慣れたせいかもしれない.スムーズに流れない繋ぎ場面もあったが見応えのある演目だった.
区民センターホールは,京王線沿線の小さな商店街の中にある,典型的な「地域ホール」.場所がへんぴなだけにがら空きかなと思えば,800席ほどある会場は満員だった.地域で京劇教室を張春祥氏はやっているのでそのお弟子さん関係の動員があったのかもしれない.地域に密着した文化活動となっているのかもしれないけれど,高度な芸術性と娯楽性を兼ね備えたこの至芸,東京郊外で年1,2回の公演しかないのは実にもったいない感じがする.運動性の高い京劇は視覚的快感に直接的に訴えるので,約束事に通じない初心者でも入りやすいはずだ.潜在的観客は大量にいると思う.