閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ヨコハマメリー

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平日のレイトショー上映だが100人ほどの行列ができるほどの盛況.たまたま今日が1000円の日にあたったということもあるが,観客層の幅広さにちょっと驚く.2,30代の女性が一人,二人で来ているのが目立つ.
白塗りの異形の老娼婦のビジュアルは強烈なインパクトがある.この不可思議な存在の謎解きのドキュメンタリーとなればある種の人々(僕ももちろん含まれるが)の好奇心をかき立てる.さてこのドキュメンタリーで彼女の人生の謎解きが満足できるかたちで行われたかといえば,少なくとも僕は欲求不満が残る.ヨコハマメリーそのものより,メリーに接触があった人々への取材が映画の中心で,メリー自身については結局ほとんど明らかにされていないのである.ほとんど語り部の役を担っていたようなゲイで末期癌のシャンソン歌手,永登元次郎をはじめ,取材された人々はことごとく強烈な灰汁の強さを持つ人物ばかり.メリー自身は映画の中では全くと言っていいほど語らないので,メリー周辺の濃厚な人物の語りによって映画の主題が散漫になってしまった感じある.
また取材者が取材を通じて対象に強い愛着を持ってしまったためか,メリーに対する視線がセンチメンタルで甘すぎるのだ.陳腐で甘ったるい物語の枠組みがさきにあり,それに合わせて取材・編集を行っているような感じが強い.特に役者五大路子の言葉は,まさに「芝居がかった」定型的な感傷主義に染まっていて,面白みが少ない.メリーは娼婦であったにもかかわらず,彼女を実際に買った客についての取材がないのは,発想として不自然だ.娼婦としての彼女の人生についてはほとんど言及されていないことに大きな不満を感じる.
映画を観ながら,自分は奇矯な老娼婦メリーについてもっと残酷で無慈悲な物語を期待していたことに気づく.メリーは最後に少しだけ登場する.もっとドラマチックな演出はあっただろうに.

この映画を観て,ドキュメンタリー作家としての原和男のすごさを改めて認識する.原和男ならこのような生ぬるい視線では対象を眺めなかったように思う.対象に対する強烈な愛着を表明しつつも,逆説的に対象の生々しい現実を無惨に映し出してしまうのが原和男の凄さだ.