閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

国性爺合戦

獅子ヶ城楼門の場
獅子ヶ城甘輝館の場
国立劇場第六八回歌舞伎鑑賞教室

  • 解説(歌舞伎のみかた):坂東亀三郎
  • 作:近松門左衛門
  • 指導:中村富十郎
  • 出演:中村芝雀尾上松緑,坂東秀調,市川右之助,中村信二郎
  • 劇場:三宅坂 国立劇場大劇場
  • 上演時間:二時間半(「歌舞伎のみかた」および休憩20分,10分を含む)
  • 評価:☆☆☆☆
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今日は非常勤先で仏語を教えている日本文化学科専攻の学生6名と一緒に鑑賞.高校のときの集団鑑賞で観た1名を除き,全員が歌舞伎未体験だということだったので誘ったのだ.なにせ学生席はたったの1300円で,映画一本見るより安い値段で歌舞伎の生の舞台を見ることができるのだ.日本文化専攻の学生ならなおさらこうした機会を利用しないのはもったいない.

和藤内の虎退治の場面がある「千里ヶ竹」の場が省略されたのは残念.コミカルなスペクタクルで学生にも受ける場面だと思ったのだけれども.ただ虎退治の場面は「歌舞伎のみかた」の最後にさらりと亀三郎が演じている.亀三郎による解説は今年はあまりのも淡々と進み,観客を舞台に上げて実演させた昨年の「歌舞伎のみかた」に比べると単調で工夫に乏しいように思った.
松緑の和藤内,芝雀の錦祥女,信二郎の甘輝はそれぞれ初役であるが,役柄と役者自身の個性がうまく嵌った好配役に見えた.また和藤内の母親,渚を演じた右之助の演技も印象的.封建時代の倫理に縛られた女の「ややこしさ」,一筋縄ではいかない頑固さの表現に説得力を感じる.
序幕の「楼門の場」は動きに乏しい,長い言葉のやりとりがたらたらと続き,退屈を感じてしまう.観客席の睡眠割合も高い.義太夫の声調子がこちらの生理的リズムと合わず,神経を逆なでされる感じで響く.休憩をはさんで二幕目は展開が変化に富んでいて楽しめた.ただし和藤内の見せ場である「紅流しの場」のスペクタクルはもっと派手にかつ長い時間見てみたかった.大詰めの場,瀕死の錦祥女と渚がもだえ苦しんでいるすぐ横で,奴たちによるくだらない,和藤内の太刀をめぐるパントマイムの笑劇がしつこく続くという皮肉な対照がおかしい.

同行した学生たちの反応は,うーん中くらいといった感じか.大満足という感じでもなかったが,作品の不可解さを素直な受け止めた上での率直な感想が聞けたのがよかった.団体鑑賞が入っていた日なので一階席をとることができず,3階席での鑑賞になってしまったのが残念.一階のいい場所で見せてあげたかった.