閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

パリ感覚

渡辺守章岩波現代文庫,2006年)
パリ感覚 (岩波現代文庫)
評価:☆☆☆☆

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パリという場から想起される様々なトピックを,連想力の赴くままにといった感じで,日常的断面から審美的・哲学的内容まで軽快に行き来するエッセイ.1985年8月にシリーズ『旅とトポスの精神史』の一冊として岩波書店から刊行された著作の文庫新装版.セーヌ川,大聖堂,ソルボンヌ大学,オペラ座などの具体的な場とつながる現代および過去の様々な次元のエピソードが,著者独特の皮肉と諧謔をたっぷり含んだコメントとともに語られる.パリおよびフランス文学・文明への深い造詣にもかかわらず,パリの文化的威信や幻想にとらわれることのない著者の欺瞞のない反骨ぶりが心地よい.フランスにおける「公共サービスの悪さ」への痛快な罵詈雑言を含む第三章「権力装置の十字路」は面白く読んだが,僕にとってはなんといってもオペラ・ガルニエの「機能」についての考察がある第四章「劇場という装置」が興味深かった.