閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

冠婚葬祭のひみつ

斎藤美奈子岩波新書,2006年)
冠婚葬祭のひみつ (岩波新書)
評価:☆☆☆★

                                                        • -

意地悪で嘲弄的だが,歯切れのよい文体が心地よい文芸評論家,斎藤美奈子による現代の冠婚葬祭事情の分析.
各70ページほどの分量の三章構成.第一章では明治以来の冠婚葬祭のありかたの変遷をたどる.第二章は現代の結婚,第三章が葬送についての分析.斎藤独自の巧みなつっこみ芸・おちょくり芸はこの書でも発揮されているが,対象が具体的な人物ではなく事象だけに若干あたりが鈍い感じもある.

30歳を超えて結婚して子供ができて,冠婚葬祭との関わりから逃れられないことが多くなった.自分は学生生活が人よりも極端に長かったせいもあり,意識の上で「大人」になりきれていないところがあり,冠婚葬祭の類は苦手である.とはいうものの全くこうした社会の決まり事を無視する勇気もない.機会があるたびに,インターネットのサイトを参照したり,周りの様子をうかがいながらびくびくとこの手の機会をやりすごしてきた.こうしたしきたりに精通してさっとスマートに振る舞えるのはいかにも大人な感じもして,正直ちょっとあこがれてしまうところもある.人生の節目節目をセレモニーで区切りをつけることにはそれなりの意義も感じるのだ.しかし自分がそれをやるかどうかは別問題.
自身の結婚については,結局結婚式を挙げず,双方の両親を交えての食事会と写真撮影を持って結婚式の代わりとした.あとは知人に転居と結婚の連絡はがきを送っただけ.子供の出産の際は,第一子については「生まれました」はがきを方々に送った記憶がある.第二子については生後ほぼ一年になるがそうした連絡はやっていない.年賀状に一言書き添えたぐらいか.第一子は七五三をはじめあらゆる成長行事を行っていない.これはやりたくない,やる意義を感じないというよりは,やり方がわかんないからというのがやらない一番の理由.
葬式には一応喪服を着ていくが,香典の額やいつ渡すかなどいつも迷い,そのたびにインターネットサイトを検索する.

斎藤のこの著作を読むと,ちまたにある冠婚葬祭の次第がせいぜいこの100年,ほとんどの場合は戦後の高度成長期以降に確立したものであり,大半の現代人はマナー本やネットの情報サイトの記述を「正典」として参照しているにすぎない,その正典自体も前時代の正典の内容をそのまま丸写しした現状に沿わないものが多い,ことがわかりちょっと安心する.
結婚についてはもう僕はすましてしまったこともあり,内容にそれほど新味は感じなかったが(斎藤の結婚批判はちょっとフェミニズム教条的な感じで,結婚生活,夫婦関係の硬直したとらえ方には疑問を感じた),第3章の葬送の内容は今後親の葬儀,そして自分自身の葬儀に必ず関わらなくてはならないこともありとても興味深かった.両親はまだ健在だがその葬送のあれこれの面倒を考えると今から気が重い.斎藤は,事前に葬儀業者の情報を収集をしておくことを勧めている.ごく平凡な葬送を行うだけでも2,300万円の費用がかかる事実にちょっとショックを受ける.うちの両親の場合はそれなりの「準備」はしているだろうけれど,自分が死ぬ際も最低300万ぐらいは残しておかないと子供に金銭的にもけっこうな迷惑をかけることになってしまうのだ.今すぐ死ぬわけにはいかんなぁと思う.葬式貯金をしなくてはなぁ.