閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

“エロ事師たち”より人類学入門

製作年 : 1966年
製作国 : 日本
配給 : 日活
キャスト:
小沢昭一 オザワショウイチ (スブやん)
坂本スミ子 サカモトスミコ (松田春)
近藤正臣 コンドウマサオミ (松田幸一)
佐川啓子 サガワケイコ (松田恵子)
田中春男 タナカハルオ (伴的)

監督:今村昌平 イマムラショウヘイ
原作:野坂昭如
脚色:今村昌平 沼田幸二
撮影:姫田真佐久
音楽:黛敏郎
美術:高田一郎

評価:☆☆☆★

早稲田大学中央図書館での今村昌平追悼上映会での観賞.昨日の『にっぽん昆虫記』より観客は多かったものの,無料上映会にもかかわらず集まったのは20名足らず.
大阪の下町の理容店を一人で切り盛りする未亡人とその愛人のエロ事師,未亡人の息子と娘が主な登場人物.未亡人は愛人との性に溺れている状況に後ろめたさを感じ,息子と娘をさんざん甘やかしてスポイルしてしまっている.息子,娘は母親の愛人の存在を受け入れることができず,愛人には反発.ひねくれ者の不良とズベ公.エロ事師は仕事はエロだが,芯は誠実でまじめな人物,理容師の子供に対してもそれなりの責任を感じている.
この家族関係のバランスがゆれ動くさまをリアルかつユーモラスに描いた作品.この関係は,通常家族内ではタブーとされている性関係の介入によって,大きく揺さぶられる.未亡人の娘は中学生ながら奔放ですでに豊富な性経験をもっている様子.
仕事内容に似合わず案外まっとうな人間であるエロ事師は,愛人の娘をまさに「娘」として受け入れようとするのだが,未亡人入院中についむらむらと欲情してしまい,親子共々と性関係を持つはめになってしまうのだ.エロ事師はまっとうな処世感覚を持った人間ではあるけれど,必ずしも倫理的な人間ではない.いったん事を起こしてしまったら「まぁしゃあないわ」って感じでその現実を受け止めてしまう.
「性関係」の介入で家族関係はどろどろといったん溶解してしまうのだが,その溶解ぶりは悲劇的なトーンでは描かれない.むしろきわめて自然ななりゆきとして関係の解体は描かれる.セックスの「どうしようもなさ」「なさけなさ」に対しては,虚無感漂う諦念とともに,淡々と受け止められている感じ.ヘンな状況に対する間の抜けたとらえ方に苦笑が思わずこぼれるようなユーモアがある.小沢昭一の芝居は強力な求心力を持つ.