閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

リチャード三世

子供のためのシェイクスピア・カンパニー

  • 作:ウィリアム・シェイクスピア小田島雄志翻訳による)
  • 演出・脚本:山崎清介
  • 照明:山口暁
  • 美術:岡本謙治
  • 衣装:三大寺志保美
  • 出演;山崎清介,伊沢磨紀,福井貴一,佐藤誓,間宮啓行,大内めぐみ
  • 上演時間:2時間20分(休憩15分含む)
  • 劇場:新大久保 東京グローブ座
  • 評価:☆☆☆☆☆
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シェイクスピアの歴史劇は,イギリス史の知識がないと楽しめないのではという先入観があったため,これまで一作品も読んでおらず,舞台上演もタイトルや上演団体が思い出せないほど大昔に2,3度ほどしか観ていない.「子供のための」版『リチャード三世』は,登場人物やエピソードがうまく剪定されていたため,人物名に惑わされることなくドラマを楽しむことができた.一言で要約するとリチャード三世とは,英国史に実在した「マクベス」である.作品内容から考えて権力奪取のためになりふり構わず権謀術数をめぐらし,最終的に破滅するリチャード三世は,「マクベス」の人物造形のモデルを提供したに違いない.権力という悪魔に憑依されてしまったこの王の悪党ぶりと空虚な内面は優れて劇的な主題である.
人形はリチャード三世の奇形的な左こぶしとして用いられていた.このこぶしが人形の顔になっていて人面蘇のようにリチャードの内面の語り相手になったり,リチャードにかわって理性が抑制できない衝動的なことばを発したりする.この人形使用法は,ドラマのなかで実に効果的に機能していたように思う.
黒帽子黒マントのコロスによるささやき台詞や拍手,黒一色の背景と床に並べられた机と椅子というシンプルながら変幻自在に豊かな象徴性を持つ抽象的舞台美術といった確立された演出様式によって,中世末期の薔薇戦争を題材にするこの歴史劇は,きわめてシャープでスピード感のある現代劇へと巧みに変換されていた.「子供のための」の独創的様式の導入には,きわめて知的で入念な準備作業が行われたことを感じさせる.
中盤若干リズムがだれる場面もあるが,要所要所で笑いや緊迫感のある場面を組み込んで飽きさせない.とりわけ幕切れの場面の演出は呼吸をするのを忘れてしまうほどの美しさと緊張感に満ちていた.BGMの選曲センスもいい.照明もかっこよかったのだが,もうちょっと全体に明るさがあったほうが,子供も(大人も)見やすくてありがたいと思うのだけど.800席の客席は8割の入り.グローブ座の三階席は高さがけっこうあって,見下ろし感が強い.シンメトリックな机と椅子の配置の変化や役者のたちいちは把握しやすいというメリットは今回はあったけれど,800円の値段差ならS席を購入したほうがよかったなぁとちょっと後悔する.