閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

天守物語(1917)

七月大歌舞伎 夜の部

今回上演された玉三郎監修,鏡花四作品の中では一番楽しめた作品だった.前半は妖怪の姫二人のコミカルで若干風刺的なやりとりを比較的明るい照明の中でやり,後半は図書之助と富姫との電撃的ではかない恋愛譚を暗い照明の幻想的雰囲気の中で描く.作品のコントラストがはっきりとしていてわかりやすいお芝居だった.春猿玉三郎,海老蔵などそれぞれの役者と役柄の雰囲気も見事に同調して,演技の演出も安定感がある.特に海老蔵の図書之助は,図書之助の純粋で一本気だがそれゆえにちょっと馬鹿っぽい雰囲気が,海老蔵のインタビューでなどの無防備な言動と重なるところもあっておかしい.
玉三郎自身が再演を重ねて作り上げてきた作品だけあって完成度が高い舞台だった.とても楽しんで観賞できたのだが,この脚本でこの演出という組み合わせに物足りなさも感じる.鏡花の幻想劇を,商業演劇としての歌舞伎という枠組みの中で上演するにあたっての表現上の限界も感じてしまった.