閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

エルマーと16ぴきのりゅう

人形劇団プーク
http://www.puk.jp/repertory/16piki/16pikielmer.html

作/R.S.ガネット  
脚色/川尻泰司
演出/高橋 博
美術/人見順子
音楽/宮崎尚志
照明/芦辺 靖
効果/吉川安志
制作/清水治信
宣伝美術/土方重巳
出演者/安尾芳明、大橋友子、滝本妃呂美、柴崎喜彦、
中山正子、松岡成剛、桐丘麻美夏、山越美和、松澤孝彦
上演時間:1時間45分(休憩15分含む)
劇場:渋谷 東京都児童会館ホール
評価:☆☆☆☆★

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五歳の娘と一緒に観劇.700人ほど入るホールはほぼ満席.夏休みは始まったとはいえ,平日昼の公演だけあって,観客席は母親と子供の姿ばかりで大人の男の姿はほとんど見あたらない.
エルマーの冒険』シリーズは僕が幼少期に繰り返し読んだ愛読書で,娘が五歳の誕生日を迎えてからこれまで三回ほど通しで読み聞かせているほど愛着のある作品である.プークによる人形劇翻案もかなり以前から行われているようで,劇団の代表的レパートリー作品の一つになっているようだ.そもそもプークの存在を知ったのも,何年か前に紀伊國屋サザンシアターで『エルマーのぼうけん』の人形劇上演のチラシを目にしたのがきっかけである.娘が大きくなったら是非観に行こうと思っていたのだ.
プークによる翻案は僕の期待を裏切らないものだった.プークの他の翻案作品同様,単純な「移し替え」は行われていない.原作は一度徹底的に咀嚼された上で,人形劇特有の演劇的効果を最大限生かすべくきわめて大胆に,そして自由に翻案されている.しかし物語全体の骨格と世界観はしっかりと尊重されていて,原作を読み込んでいる読者にも違和感がないのだ.今回の翻案では,原作ではエルマーの冒険に同行しない「ノラネコ」のキャラクターを増幅させてコミカルな場面を作ったり(猫を演じた役者のとぼけた台詞回しに味があり,ネコが何かしゃべるたびに,こどもたちの笑いをとっていた),原作には登場しない人間の大人の存在を強調することで対立軸を明確にし,現代社会に対する風刺的な視点をさりげなく取り入れている.「つなぎ台詞」「捨て台詞」といった機能的台詞の効果もしっかりと計算されたとてもよい脚本だと思った.
冒頭に物語の主人公であるエルマー・エレベーターの息子を口上役として登場させるのは,原作の第一巻冒頭を踏襲したものだが,この「口上」によって物語に俯瞰的な視点,複合的な視点が提示された.ラストシーンは,大風船と差し金によって空を飛ぶりゅうたちの乱舞.観客席をぐるりぐるりと回るりゅうたちに子供は大興奮.祝祭感に満ちた明るく解放的なエンディングだった.原作のエンディングはりゅうとの永遠の別れの場面の後,孤独な夜汽車の旅を経て,日常へと回帰するようすで終わる,きわめて余情豊かな美しいラストなのだけど,舞台版だとやはりりゅう解放のにぎやかな場面で終わるほうが効果的だろう.
幼少時より愛着の深い作品が丁寧に読み込まれ舞台化されていることに大きな満足感を得る.