- 作:リヒャルト・ワーグナー
- 台本・演出:宮城聡
- 作曲:原田敬子
- 照明:大迫浩二
- 美術:木津潤平
- 衣装:高橋佳代
- 出演:美加理,大高浩一,本多麻紀,阿部一徳,諏訪智美,池田真紀子
- 上演時間:二時間(休憩一〇分含む)
- 劇場:上野 東京国立博物館庭園特設舞台
- 評価:☆☆☆★
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「語り」と「演技」を別々の役者が担当するク・ナウカ様式での上演.特設舞台の作りは昨年秋に観た『オセロー』とほぼ同様.左側に能の橋がかりのような通路があり,主舞台は二〇畳ほどの広さの正方形.正面奥に女性の「語り」,右手に男性の「語り」が並ぶ.
芝居はワーグナー版のテクストを基にした三幕構成.二幕と三幕の間に休憩が入る.音楽は全面的に新たに作曲されたものだが,音楽の使用はきわめてストイックで限定的である.三幕それぞれ案外にドラマにとぼしく単調な場面.音楽がほとんど入らないこともあり,休憩前の一,二幕は猛烈な睡魔に襲われながらの観賞となった.
ワーグナー版に基づく台本は,展開に整合性がありすぎ,中世フランス語版のほうに馴染みがある僕にとっては過剰に説明的でおもしろみに欠けるように感じられた.中世フランス語版の二つのバージョンを基に再構成されたベディエの翻案にある,媚薬の効用のエピソード,粗末な小屋で眠るトリスタンとイズーの間にマルク王が剣を置いて立ち去ったエピソード,佯狂トリスタン,楽師トリスタン,白い手のイズー,白い帆と黒い帆などの謎めいたエピソードが抜け落ちているのがもったいない感じがした.
新しく作曲された音楽は,うーん,僕には凡庸でつまらない,いかにもといった感じの現代音楽に思えた.
美加理は相変わらず強烈な存在感を発揮して惹きつける.美加理という個性の存在を前提とした演出であるように思える.要所要所の「絵」は美しいけれど,テクストに深みをあまり感じない.「歌舞伎的」趣向に徹した作品なのかもしれないが,僕は若干物足りなさを感じる.ヴィジュアル重視で海外公演向きかもしれないが,脚本が弱く文学的厚みに乏しい.