閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

籠鶴瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)

秀山祭九月大歌舞伎 夜の部

  • 劇場:東銀座 歌舞伎座
  • 作:三世 河竹新七(1888)
  • 出演:中村吉右衛門(佐野治郎左衛門),中村福助(八ツ橋),中村梅玉(繁山栄之丞),中村芝雀(兵庫屋九重),中村藤蔵(おきつ)
  • 評価:☆☆☆☆★
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根っからの性悪ではないが優柔不断で自己中心的な花魁八ツ橋の役柄はいかにも福助にぴったりといったかんじ.
筋書で粗筋をよんだときは,陳腐でくだらない色恋話だと思ったのだが,物語・人物は類型的とはいえ,各人物の葛藤がしっかりと描かれている.役者もそれぞれ丁寧にその葛藤を表現していて,二時間の上演時間,だれるところがなかった.大詰めの結末の唐突さはいかにも歌舞伎っぽいが,まさに狂っているとしか思えないほど強烈なインパクトがある.「籠釣瓶はよく切れるなぁ」という幕切れのセリフのシュールな凄みにしびれるような快感を覚える。歌舞伎ってすげぇ(笑)。それまでの展開の整合性とかロジックをいきなり最後にめちゃくちゃに破壊してしまうような感じというか。近代以降の「洋モノ」には味わえない歌舞伎ならではの醍醐味ではなかろうか。こういう作品を娯楽として受容しているのだから,歌舞伎観客の芝居民度の高さには恐れ入ってしまう.