閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

オペラの運命:十九世紀を魅了した「一夜の夢」

岡田暁生中公新書,2001年)
オペラの運命―十九世紀を魅了した「一夜の夢」 (中公新書)
評価:☆☆☆☆☆

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バロックの王宮文化の絢爛を受け継いだブルジョワ階級の土壌の中で発展し,20世紀の大衆社会の到来とともにその歴史的使命を終えた音楽劇「オペラ」の興亡を社会史的観点から読み解く概説書.オペラというジャンルが,その黄金時代であった18世紀後半から20世紀前半にかけて果たした社会的機能についての興味深い分析が中心.新書版の概説書ゆえ論証の荒さや細かい部分での誤謬はあるだろうし,いささか図式的で単純化されすぎているように思える見解もないではないが,その視点の選択と勢いのある文体,興味深い挿話の数々で音楽史の概説書としては知的挑発に富んだ,異例といえるほど面白い本だった.
作者がここでとりあげる「黄金期」のオペラ作品については個人的にはほとんど関心がないのだが,当時のオペラのダイナミズムを魅力的でわかりやすい文章にひきこまれ,一気に読んでしまった.一般教養の文化論の講義を後期から担当するのだけれど,この本のレベルの内容の講義をすることを目指したいものだ.
あと特に初期のオペラと歌舞伎が,スペクタクルとして多くの共通した性格を持っていることもこの本の記述を読むとよく見えてくる.

オペラはこれまでフランスでしか見たことがない.僕の場合,オペラも「演劇的」な観賞をするので,ロッシーニヴェルディといった正統的なイタリア・オペラよりむしろ,20世紀の現代作曲家による新作オペラのほうに興味をそそられる.ただしはじめて観たオペラはモーツァルトの作品.モーツァルトのオペラは演劇的に観ても面白いし,音楽も文句なく楽しいし,しかもしょっちゅうやっているということもあって,代表作はすべて見ている.
東京でも新国立の公演は比較的安い値段でオペラを観賞できるのだけれど,プログラムが正統的であまりそそられないのと,何かオペラ特有の「ありがたみ」,ハレの感覚の高揚感に乏しい感じがして,これまで行ったことがない.
フランスにいったときに異様に観たくなって,国内であまり観たいと思わないのは,パリのオペラ座でGパンで天井桟敷席で観賞する僕でもやっぱオペラ観賞には非日常的な要素を期待する割合が大きいからだろう.