閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

たいこどんどん

前進座公演
http://www.zenshinza.com/stage_guide/taiko_mitukoshi/taiko-mitukoshi.htm

  • 作:井上ひさし
  • 演出:高瀬精一郎
  • 音楽:いずみたく
  • 美術:高木康夫
  • 照明:寺田義雄
  • 振付:花若春秋
  • 衣装:伊藤静
  • 出演:松山政路(桃八),河原崎國太郎(清之助),藤川矢之輔(雷大五郎他),小林祥子(お篠他),永井多津子(袖ヶ浦他)
  • 上演時間:3時間20分(休憩20分含)
  • 劇場:吉祥寺 前進座劇場
  • 評価:☆☆☆☆
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昨日読了した井上の直木賞受賞後第一作である中編『江戸の夕立ち』の舞台版が『たいこどんどん』.しかしこのことは開演直前のプログラムを読んではじめて知ったのだった.何という間抜けな話! 昨夜『江戸の夕立ち』を読んだのは全くの偶然で今日の観劇に備えてというわけではない.暇つぶし読書で井上ひさしの文庫本を手に取ったのは今日の観劇が頭のどこかにあったからかもしれないけれど.

舞台版の初演は1975年.小説の発表が1972年なので小説執筆当初から舞台バージョンの構想はあったのかもしれない.話の大枠は原作と変わらないが,主筋から外れたエピソードを省略することで展開にスピードを与える一方で,原作にないディテイルを付け加えて話を膨らませたり,原作にないエピソードを付け加えた部分もある.ミュージカル仕立てになっていて,原作では狂言回しの役柄の太鼓持ち桃八が舞台ではフィーチャーされていて,道楽息子の清之助はむしろ脇.桃八役は舞台に出ずっぱりで膨大な科白をしゃべり通しであるだけでなく,歌ったり踊ったり,様々な幇間芸を舞台上で披露しなくてはならない.松山政路の桃八は悪くはないが,やはり今年の新春南座公演で桃八を演じた梅雀で見てみたかった.河原崎國太郎の清之助は風貌はいかにも道楽息子にぴったりで,女性的な仕草も人物造形に大きく寄与しているけれど,演技は全般におとなしすぎるかんじもあり.桃八との丁々発止のやりとりの「のり」がいま一つ盛り上がらない.ミュージカルなので歌のシーンがあるのだが,國太郎の歌声が低く劇場の中であまり響かず,歌詞がよく聞こえないという難点あり.
この二人以外は,一人の役者が数役を担当する.清之助が惚れる三人の女性は,同じ女優(永井多津子)によって演じられる.永井多津子は悪女の狡猾さを巧みに表現していた.藤川矢之輔の演じる役柄は,茶目っ気のあるとぼけた豪傑という性格を共有していて,違う役柄にもかかわらず一貫したイメージを保持している.
劇団の性格,および劇場の雰囲気も影響していたのかもしれないが,ミュージカルにもかかわらずいささか華やかさにかけていたのが残念.曲の入れるタイミングと劇の流れにぎごちないところもあったし,ミュージカル・シーンを出し惜しみしすぎているように思う.音楽はよくできてはいるのであるが,耳に残るような印象的な旋律に乏しい.予算の関係だろうが音楽は録音.
前進座劇場は8割の入り.いつもどおり老人夫妻が観客層の中心.前進座はおじいさんの観客が多いため,客席がくすんだ感じになる.団体観賞でかなり席は埋まっているようで観劇マナーはいま一つ.今日は公演中に二回も携帯電話の呼び出し音が鳴る.