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『クロノス・ジョウンターの伝説』というタイムマシンものの恋愛小説の傑作を読んでいたにもかかわらず,語呂合わせの題名(作品中の記述では「蘇り」の語源だということだが)と青少年向きSF風の題材に,何となく安っぽさを感じ,この作品にはこれまであまり触手が動かなかった.SFファンタジーは嫌いではないのだけれど,物語設定の安易さに白けてしまって読んでいて熱中できないところがある.
これまで読んだ梶尾の作品はみなあまりにその世界が健全すぎるのもちょっと物足りないところ.堅実な文章と物語の構築力とその内容の健全性は藤子F不二雄のSFや星新一のショートショートを連想させる乾いた感じがある.
『黄泉がえり』は,死者が九州の一地方で一時的に日常世界に蘇ったことを描く.この超常現象についてSF的な背景はかなり丁寧に説明されているのだが,「蘇り」というSF的設定は不可能な願望の実現を描くための外枠にすぎない.物語の主眼は親しき人を失い,失意の中にある人々が抱く痛切な願望の実現である.いくつかのキーとなる人物の「再会」の物語が平行して描かれているが,それらは我々が抱く親しき者の死に対する感傷を尊重するがことく,いずれも読後の味わいが爽やかな美しい物語となっている.