閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

女流:林芙美子と有吉佐和子

関川夏央(集英社,2006年)
女流 林芙美子と有吉佐和子
評価:☆☆☆☆★

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その人並み外れて濃密で激しい生き様ゆえに燃え尽きたかのように,老年に達する前に死んだ二人の女性作家の評伝.その作風はかなりことなるのだが,この著作で紹介・想起されるこの二人の女流作家にまつわる逸話の数々は,二人に共通した性格そして宿命をうきぼりにする.エネルギー過剰のゆえに周囲をふりまわして憔悴し,自身は常に全力疾走のまま作家人生を駆け抜けていった.この評伝で淡々と記されたその破格ぶりは実に痛快である.二人の人物像が堅実な技術で見事に再現された優れた評伝で,この二人の女流作家の著作の読書へと強く誘われる.しかしこの二人の人生の濃密さを描くには各100ページほどの分量ではいかにもものたりない.
かつて林芙美子の旧宅の近所に住んでいた.旧林邸は一般に公開されていて,散歩がてら3度ほど訪ねたことがある.この評伝でも言及されているが,林のアクの強さと品のなさとは対照的な,静かで落ち着いた平屋作りの大変趣味の良い日本家屋だ.放浪に放浪を重ねた波瀾万丈の人生の最後にようやく林が手に入れたアジールのような平穏な美しさに満ちた家屋である.しかしこの家屋に林が住むことができたのは晩年のほんの数年にすぎない.
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