閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

チェックポイント黒点島

http://www.alles.or.jp/~rinkogun/
燐光群公演

  • 作・演出:坂手洋二
  • 美術:二村周作
  • 照明:竹林功
  • 衣裳:大野典子
  • 出演:竹下景子渡辺美佐子,大西孝洋,川中健次郎,猪熊恒和,中山マリ,鴨川てんし,江口恵美
  • 上演時間:2時間10分
  • 劇場:下北沢 ザ・スズナリ
  • 評価:☆☆☆☆★
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昨年7月に紀伊國屋ホールで上演された『上演されなかった「三人姉妹」』以来となる坂手洋二+燐光群のオリジナル作品新作の上演.竹下景子渡辺美佐子,江口恵美という三人の女優を客演で迎える.この三人の女優の個性をうまく引き出した配役と演出だった.三人ともとても可愛らしい.竹下景子は僕にとっては『クイズダービー』のお姉さんのイメージが強いのだけど,あの雰囲気を残したまま,アクの強い他の役者たちのなかにとけ込んでいた.小柄でとてもキュートな人だった.
直球のド左翼である坂手のイデオロギーを許容できるかどうかがポイントとなるが,いささか図式的な政治的・社会的メッセージが,豊かな幻想的イメージで表現されるいつもの坂手作品の特徴を備えているが,今作は会心の作ではないだろうか.きわめて充実した内容の,美しいイマージュに富んだ政治的ファンタジーだった.

以下は作品内容に言及している部分がある.

舞台美術はドイツ,ベルリンの国境にかつて設置されていた検問所の複製だけである*1.いくつもの場所が重なるこの検問所を軸に複数の物語が同時進行していく.この検問所は西ベルリンに置かれていたチャーリー・チェックポイントであり,政治色の濃い漫画を書く漫画家(ヒロコ,竹下恵子が演じる.石坂啓がモデル?)が自宅の庭に作ったアトリエであり,東シナ海上,日本・韓国・中国・台湾の国境上に突如出現した黒点島におかれた黒点観測所でもある.ただしこのうち3つめの黒点観測所は,漫画家が自分の漫画の中で創造した架空の場所だ.漫画家の家族の問題,その漫画の愛読者の家族の問題,日中韓台の国境問題,ベルリンの壁の問題,これらの主エピソードの他,現代の様々な社会的問題がこのチェックポイントを通じて語られる.5分から10分ほどの長さの断片的ではあるが,濃厚なエピソードが次々と演じられている.チェックポイントは異なる世界を分け隔てる,不条理な世界の分割の象徴として最初のうちは提示される.しかし次第に心理的・政治的・社会的なさまざまな境界の曖昧性の象徴として,分断された世界に住む人々の邂逅の場に姿を変えていく.
エピソードは断片化され,時間軸も空間もばらばらに提示される.観客はそれらを統合し,自分なりに再構成することを強いられる.いずれもかなり濃厚なエピソードである上,メタ演劇的な構造も持っているのでで,頭の中で組み立て直しているうちに混乱もしてくる.しかし各エピソードが観客の頭の中に作り出すイメージの波紋は,芝居が進むにつれ重層となり,その重なりの中で有機的に結びついていく.
各場面の相互作用によって形成された新たなイメージが絶えず観客にさまざまな設問を投げかける.

*1:チェック・ポイント,チャーリーはまだベルリンにモニュメントとして残されているようだ.http://d.hatena.ne.jp/n-291/20061022