閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

番町皿屋敷

花形歌舞伎 昼の部@新橋演舞場

家宝の皿を割ったことで殺された恨みで,幽霊となり夜な夜な皿の枚数を数えるお菊伝説に基づく戯曲.ただしこの戯曲では幽霊となった菊は書かれておらず,殺されるに至った経緯を述べたモノ.二幕構成.新歌舞伎作品としては古典といっていいほど上演回数が豊富な作品.
筋立てはシンプルだが奇妙な戯曲である.一幕目は青山播磨の人となりを示すための幕.町奴とのけんかの場面を通して播磨の人物像を提示する.けんかっ早く,豪放磊落,まっすぐな人格で,情にも厚い.けんかの仲裁に入る伯母を見送った際の「伯母様は苦手じゃ」というなんてことのない台詞が「名台詞」となるのだから,役者の創意,目の付け所というのはたいしたもんだなぁと思う.確かにこの短い台詞は播磨の人となりを象徴的に示すものとなる.
二幕目で主筋が提示される.
播磨の恋人である腰元お菊が播磨の心情を確かめるために家宝の皿を故意に割る.播磨は菊への愛ゆえにその過失をとがめない.それどころか身分の低い菊との結婚を確約する.播磨の愛の大きさを確信した菊は喜びの絶頂にいたる.しかし菊が家宝の皿をわざと割ったことがその幸せの直後に明らかになってしまう.真情を疑われた播磨は逆上.菊は天国から一気に地獄へと突き落とされる.家来の賢明な仲裁にもかかわらず,播磨はその裏切り故に愛する菊を斬り殺す.菊は播磨の思いの深さを知り喜びのうちに斬り殺される.恋を失った播磨はこれからはけんかに明け暮れる生活を送ることを決意する.
皿を惜しんで逆上したわけでないことを示すために,菊が割らなかった残りの皿をみな一つ一つ砕く念の入れよう.一枚皿を割る度に,無念さと裏切りへの怒りが燃えあがるようである.豪放零落でまっすぐな性格の割には,播磨は恋の筋立てについてやたらめったら面倒くさい人物である.愛の確認作業をしたという理由だけで逆上されて斬り殺されてはたまらない.とは言うモノ菊は播磨の至純の愛を知った歓喜の中で死んでいった.こちらも相当倒錯的であるといえよう.結局はハッピーエンドということなのかもしれない.
松緑芝雀とも,人物像をすっきりとわかりやすく提示していた名演だと思った.