閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

父親たちの星条旗

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戦争映画はあまり好きなジャンルではないが,イーストウッド監督作品で,「週刊文春」の映画評での中野翠の絶賛ぶりに関心をひかれる.近所にあるユナイテッド・シネマとしまえんで休日前日にやっているスーパー・レイトショーという午前0時過ぎからの上映の回を観に行く.近所にある映画館でスーパーレイトショーという企画を定期的にやっているのはありがたい.映画の日というのもあって深夜にもかかわらず,この映画館にしてはそれなりの人混みでにぎわっていた.上映の部屋は120席ほどの一番小さい部屋だったが1/3ぐらい埋まっていた.
ずしっとした重みのある作品である.脚本,構成,カメラワーク,CGなどすべてがプロの手によって念入りに作られた雰囲気で見応えはあった.語りの時間である現在と過去,硫黄島の戦闘とその後の「戦争国債」キャンペーンのための巡業,この三つの時間を切り刻んで再構成することで,物語に重層的な構造を作り出している.この「重み」が作品の主題をひきたてる.戦争スペクタクルとしての映像表現,戦闘場面の描写もしっかりと見せる.米軍上陸のシーンの緊迫感は,観客の心臓も鼓動させる迫力に満ちている.そうしたスペクタクルも丁寧に描きつつ,その主題は戦争という非日常的熱狂の中できわめて対照的な二つの現実を経験することを強いられた兵士の混乱と苦悩である.アメリカ・インディアン出身の兵士にスポットが当てられる.この役者が異常なまでにうまい.戦争が彼らにもたらした葛藤の深さが物語の進行とともにどんどん重みをまして観る側に浸透していく.この重苦しさゆえに実に苦い後味の戦争映画になっていた.
硫黄島の戦闘を日本の側から映画いた作品も同時に作るというイーストウッドの良心がどのような物語を提示するのか,彼の視点によって日本軍の戦闘がどう描かれていたか,好奇心をかき立てられる.続編の『硫黄島からの手紙』が楽しみだ.