閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

性と暴力のアメリカ:理念先行国家の矛盾と苦悶

鈴木透(中公新書,2006年)
性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶 (中公新書)
評価:☆☆☆☆

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アメリカでは性と暴力に関する問題が常に大きな社会争点となる.そしてこの二つの問題はしばしばアメリカの頑固な保守性,前近代性を象徴的に露呈させる.
著者は性と暴力の「特異国」としてのアメリカの問題を,建国以来の歴史的観点から考察していく.ここで著者が取り上げる事例は,僕自身がこれまで通りすがりに観たり読んだりしたニュース,映画,小説などで頻繁にとりあげられることばかりである.しかしこれらの現象がアメリカという国家の基層を構成するような病理だと捉える発想はこれまでの僕にはあまりなかったのでこの著作の視点は新鮮だった.自分の周囲がどちらかというとアンチ・アメリカ的気分が優勢なため,それへの反発感から無意識のうちにかなり親米的な見方が僕には身に付いてしまっているようである.
どこの国でも,否定的な目で眺めれば,この本で指摘される程度の病理は抱えているのであり,アメリカが突出して異常な国であるとはいえない.しかし問題はアメリカが超大国でありその影響は世界的であること,とりわけその絶大な権力そして利害関係の巨大さゆえに日本ではアメリカを適正な距離で眺めることが難しくなっていることである.