閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

東京国際演劇祭2007

http://tif.anj.or.jp/index.html
東京国際演劇祭2007のWebページが公開された.大仰なネーミングのわりには,乏しい予算でつつましく開催されているのではないか,っていう地味な雰囲気の漂う演劇祭なのだが,演劇オタクの間での認知度はいかがなものなのだろう.私はこの演劇祭に招聘されていたチュニジアの劇団の芝居を昨年みて,荒削りながら力強さのあるきわめて実験的な演出に大きな感銘を受けた.アラブ圏にこんな前衛精神あふれる芝居があったことにたいそう驚いたのだ.昨年は同じ月にベルリンのフォルクスビューネの公演もこの演劇祭であって,その知的諧謔に満ちた舞台も大いに刺激的だった.この3月にはベルリンを本拠地とするドイツ座,そしてOrt-d.dによる太宰治の二つの戯曲を再構成した『冬の花火 春の枯葉』を見た.ドイツ座の公演は様式美の極地のような緊張感ある美しさに満ちた舞台で,しびれるほどかっこよかった.Ort-d.dは若干頭でっかちな感じではあったけれどそれなりに楽しめた.
何か地味っぽいわりには,渋いプログラムをそろえている演劇祭だな,という印象を持った.ただ海外から招聘された劇団のプログラムについては,その表現レベルの異常な高さにもかかわらず,私が行った公演ではお客さんがあまり入っていないのがとても残念だった.

今年度のプログラムにも私の好奇心を刺激する公演がいくつか含まれている.一つは昨年その実験的表現に驚嘆したチュニジアの劇団,ファミリア・プロダクションの再来日公演である.パリでもっともとんがったプログラムを組む劇場の一つ,オデオン座での公演で絶賛されたという作品の日本公演となっては期待が高まる.
http://tif.anj.or.jp/program/familia.html
海外からの招聘公演としてはアイルランドの劇団,ドルイド・シアター・カンパニーによる19世紀末のアイルランドの劇作家,John Millington Syngeの代表作の上演も気にかかる.アイルランドにはかつて一月ほど滞在したことがあるのだが,その滞在時に見たダブリンのゲート劇場やアビイ劇場での公演のレベルの高さ,そしてそこで知ったブライアン・フリールの劇作の高い精神性が強い印象となって残っている.ああ,そういえばこの秋の円の公演でやったマーティン・マクドナーもアイルランドの作家だった.「Lonesome West」というタイトルはアイルランドの西部の田舎町の孤立した閉鎖性を示していたけれど,もしかするとSyngeの「西の国」と関連があるのかな?
http://tif.anj.or.jp/program/druid.html
あともう一つあげれば,若干際物ぽくて失敗公演となる可能性も高いがチェルフィッチュ主宰の岡田利規演出によるベケットのラジオドラマの公演だ.ラジオドラマだけに当然視覚的要素はゼロ,音だけの公演となる.果たしてどんなものになるのやら.
http://tif.anj.or.jp/program/becket.html

少なくともチュニジアのファミリア・プロダクションの公演は,新しい物好き,前衛好きなら,覗いてみても後悔はしないと思うのだが.