閑人手帖

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フリーターにとって「自由」とは何か

杉田俊介人文書院,2005年)
フリーターにとって「自由」とは何か
評価:☆☆☆☆

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チェルフィッチュ岡田利規が『エンジョイ』の「原作」として挙げていた著作.著者の杉田は大学卒業後,アルバイトを転々とした後,現在はヘルパーとして障害者福祉の仕事を行っている人物.
フリーターという現代日本社会における「社会的身分」に属することの絶望的現実へのいらだち,「勝ち組」たちへのルサンチマンを巧みな修辞で表現するその言葉は,非常勤講師という非正規労働者である私にとって共感できるものが多い.しかしその共感は,非正規労働者としての屈辱の記憶を呼び起こす苦々しさを伴う.
「出口なし」のフリーターの現状の中,それを打開しうる道はあるのだろうか.著者がこの本で記すのは冷徹な現実認識であり,その先については記されていない.フリーターの現実の冷厳さがとつとつとつづられていて,その記述は悲痛な叫びに満ちていて希望の光はまったく見えない.「先生」と呼ばれ,高等教育機関で教育活動を行っているという自負でかろうじて自己の尊厳を維持できている私の職業的実体は,まさにこの著作で描かれている非正規労働者そのものである.しかしそれがいかにつらいものであろうとも,まずこの絶望的な現実を直視することから始めざるを得ないのだ.
この著作が,絶望的な現実を客観的に受け止め,そのみじめさと格闘する覚悟の先にしか未来はないことを示唆してくれる.

スタート地点でうまく立ち回ったお陰で実力以上のポジションを勝ち取り,その既得権益にだらしなく依存する生き方は,自律でも何でもない.初期条件の偶然と僥倖--何点かの偶然が重なりたまたま今の社会的ポジションに居座れる--を謙虚に認める勇気がなく,すべてが自分の能力・努力の賜物だと尊大にも(それは地に足のついた自信の根本的欠如の裏返しだが!)思いたがっているだけだ.(14ページ)