閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

異都憧憬 日本人のパリ

今橋映子平凡社,〈平凡社ライブラリー〉,2001年)
異都憧憬 日本人のパリ (平凡社ライブラリー)
評価:☆☆☆

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初版は1993年に柏書房から出版され,サントリー学芸賞,渋沢・クローデル特別賞などを受賞した著作.著者の博士学位請求論文がもとになっている.
高村光太郎島崎藤村金子光晴の三人の著作を通して,日本人にとってのパリ神話の形成の核心に迫ろうとする.しかしこの三人の著作についての彼女のアプローチで「日本人のパリ」というより普遍的な主題に集約させることは果たして可能だろうか? タイトルのうまさや序章での気合いの入り方から,近代日本でのパリ神話の盛衰に関するスケールの大きい年代記的な総合的記述を期待したのだが,実際読んだ印象では体系を形作るには互いに関連性の弱いモノグラフを並べただけという感じでダイナミズムに欠ける著作だと思った.各章の記述も内容の紹介が中心で,著者の分析については驚くような鋭い指摘は見あたらない.文献はよく探して丁寧に読み込んでいるなぁという印象はあったけれど.
正直僕の期待していた内容と違い落胆(となぜか安心)があっとだけれど,誰もがやりそうで案外やっていなかった大テーマに手をつけた,しかもそれを読み物としてプロデュースする能力があったということは,それだけで十分称讃に値することだ.