閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ひかりごけ

ひかりごけ [DVD]

上映時間 118分
製作国 日本
初公開年月 1992/04/25
ジャンル ドラマ/サスペンス
監督: 熊井啓
製作: 内藤武敏 相澤徹
原作: 武田泰淳ひかりごけ』(新潮文庫刊『ひかりごけ』収蔵)
脚本: 池田太熊井啓
美術: 木村威夫
音楽: 松村禎三 
出演: 三國連太郎 奥田瑛二 田中邦衛 杉本哲太 笠智衆
評価: ☆☆☆☆

先々週に見た三条会による舞台版『ひかりごけ』の独創的表現が頭に残り,熊井啓による映画版と見比べたくなった.映画版は原作をより忠実に再現している.役者の演技もより写実的に再現である.表現媒体の違いによる「嘘の付き方」の違いが興味深い.映画版で強烈な印象を与えるのは,なんと言っても三國連太郎の怪演ぶりだ.ギョロ目を真ん丸に見開き,放心状態でむしゃむしゃむしゃと人肉を食べる有様には,観客を身震いさせるような悪趣味と何とも言えぬシュールな滑稽さが共存している.頭の中が空っぽで何も考えていないのではないか,と思わせるような笠智衆の裁判官役も,作品の不気味な不条理性を効果的に引き立てている.ただ人間の屍肉を食ったものに現れるというひかりごけの燐光の表現はいかにも安っぽい視覚効果が使われていて興ざめ.あれなら何も写さないほうが,かえって想像力がかき立てられ,よい効果を生み出したはずである.
原作の雰囲気を堅実に映像化した佳作であり,三國連太郎(この人の目の下の輪っか皺の深さが怖い)をはじめ,暑苦しい個性の役者たちの魅力が上手に引き出された演出だが,その映像化にあたっての解釈の堅実さ故に表現の意外性に乏しい作品だとも思った.これは三条会の極めて個性的な公演を頭に思い浮かべつつ,映画版を見たからかもしれないが.