閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ハムレットマシーン

http://www.om-2.net/
OM-2

  • 作・演出:真壁茂夫
  • テキスト:ハイナー・ミュラー、柴崎直子、中井尋央
  • 美術:若松久男
  • 照明:三枝淳
  • 音響:斎藤瑠美子
  • 映像:赤瀬靖治、藤野禎祟
  • 出演:佐々木敦、中井尋央、柴崎直子、丹生谷真由子、村岡尚子
  • 上演時間:約1時間15分
  • 劇場:日暮里 Sunny_Hall
  • 評価:☆☆☆☆☆
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ハイナー・ミュラー作品連続上演企画、ハイナー・ミュラー/リンク参加作品。この企画で五団体のハイナー・ミュラーの舞台を見たのだが(正確にはハイナー・ミュラーのテクストに触発された舞台作品が多かったように思うが)、今日のOM-2の公演は表現の独創性とインパクトの強烈さで他の公演をはるかに突き放したものだった。
「正統的」な前衛スタイルのスペクタクルだった。意表をつく独創的なギミックの数々、徹底したナンセンス、表現の圧倒的強度、そしてどことなく間抜けなユーモラスさなどの要素が高い密度で組み合わさった極上の前衛娯楽だった。構成は3部構成だったが、序破急に静かで皮肉に満ちたエピローグがくっついたような感じだった。一組の男女によって演じられる第一部が序破、太った男の熱いパフォーマンスが急。表現の興奮が最高潮に達したあと、静かに弛緩するエピローグが一人の女優によって演じられる。
壊れて制御できなくなった機械が暴れ回って彷徨している感じの舞台。ミュラーの原作は自由に改変されていたが、OM-2の舞台はまさしくあの「ハムレットマシーン」の原作に含まれた濃厚な毒と破壊力を想起させるものだった。その表現の強度と奇想天外な想像力に驚嘆し、そしてその徹底した無意味さがつきつける落差の突飛のなさに爆笑する。驚異的な濃度の一時間強を大いに堪能する。この世界はやみつきになりそうだ。

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日暮里のSunny_Hallはリコーダーのコンサートなどで何回か行ったことがある。芝居の公演を見に来るのは今回が初めて。OM-2公演も今日が初体験だった。開演三〇分前に受付に行くと既にかなり長い列ができていた。受付順の整理番号配布入場制だった。客入れに若干手間取り15分ほど開演が遅れる。劇場の中に入ると、中央の床の部分が舞台となっていて、客席はその周りを円形に二列囲むかたちで配布されていた。さらにその客席の後ろ側に、二段の櫓状の鉄骨建造物が3メートルぐらいの高さに組まれていて、そこにも客席が設置されていた。観客は全部で300人強だと思う。舞台となる中央部は直径12,3メートルほど、中央が幅10センチ、縦横10メートルほどの巨大な壁が設置され、舞台のパーティションとなっている。僕が座っていたい位置から見えるほうには、壁の前に一脚の椅子が置いてあった。
開演前は客席にのみ暗いスポットライトが当たる。客入れが終わってしばらくすると暗転。暗転がしばらく続くと、舞台を分かつ隔壁の部分がぼんやりと照らし出せる。しばらく照らし出したあとでアナウンスが流れる。そのアナウンスは公演の終了を告げるものだった。まだ最初の暗転から5分ほどしか経過しいてない。最初に劇場内に入った時と同じ、客席側にぼんやりとしたスポットライトが当たる状態になる。客席がざわめく。五分ほどそのまま客席は放置される。「まさかこれで終わったわけではないだろうけど、でももしかして」と観客が不安を覚えるようになったころ、円形に配置された客席の後ろ側をかなり速いスピードで一台の自転車が周回しはじめる。しばらくすると一組の男女が中央部に入場してくる。また別の自転車が今度は客席の内周をぐるぐると回り始める。男女は中央空間を隔てる壁の左右に分かれる。
僕の座っている位置からは、男優は壁の向こう側に隠れてしまいよく見えない。ミュラーのテクストを狂ったような激しい調子で怒鳴ると服を脱ぎ始めた。壁のこちら側の女は、小型カメラで自分の顔の部分を映し出す。映像は女の座っている椅子の後ろの壁に映し出される。途中で女はそのカメラをぐっと飲み込む。胃カメラだったのだ。背景の壁に女の食道、胃、十二指腸などの様子が映し出される。自転車男二人は相変わらずぐるぐると走り続けたまま。女と男は携帯電話を通して、ほぼ同じ会話のやりとりを3度繰り返す。

この男女が退場した後、第二部が始まる。太った男の物語。だらしなくテレビを見ながらスナックをつまむ男。掃除機をかけっぱなしにして放置している。掃除機には透明で巨大な袋がくっついていて、その袋が次第に大きく膨らんでいく。突然の破壊行為。男は木製バットで室内にあった椅子、机、テレビをたたき壊し始める。羽根枕を押しつぶし、大量の羽がまき散らされる。掃除機にくっついていた巨大なビニール袋の中に男は入りなにやら絶叫して暴れ回る。この破壊シーンは、ミヒャエル・ハネケの「セブンス・コンティネント」を連想させる迫力だった。この男の周り、客席の内側の円周を山高帽をかぶり、黒いコートを羽織った男がずっと後ずさりしたままゆっくりと無言で回っている。男の狂乱ぶりがエスカレートしていく。周りから別の人間たちが中央舞台に入り込み破壊行為に荷担する。すると天井から驚くほど大量の男の写真のコピーが舞い落ちてくる。その写真のコピーは舞台を埋め尽くすほど大量だった。乱入してきた人間は倒れ込む。男はビニールの中で消化器をぶちまける。これは明らかに射精のアナロジーだ。男も卒倒した後、退場。

中央空間に静寂が訪れる。「アメイジング・グレース」が流れ始めると、スリップ姿の女が蝋燭をもって舞台中央に入ってくる。蝋燭を四方に置くと、女は中心におかれいたバケツから生魚を手づかみでとりだし、それをその場で食いちぎる。続け様に何匹かの生魚を食いちぎると、その生魚が入っていたバケツを頭の上に掲げ、中に入っていた水をかぶる。女はバケツをかぶったまま倒れ込む。「アメイジング・グレース」が流れ続けている。
しばらくして劇の終了を告げるアナウンスが流れ、客席に弱々しいスポットライトが当たる。