閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

クワイエット ルームにようこそ

松尾スズキ文藝春秋、2005年)
クワイエットルームにようこそ
評価:☆☆☆☆

                                                                          • -

138ページの中編。芥川賞候補作。
精神病院もの。主人公の女性の激動的な人生のディテイルの作り方がうまい。導入の描写は極めてグロテスクかつ独創的。
精神病院を舞台とする小説、狂人の生態を描いている小説は数多いので新鮮味を導入するのはかなり大変だ。
いくつかの松尾スズキ独自の風味を感じる描写もあるが、小説の組み立て方がきっちりと計算されていて、その主題と部分的な悪趣味にもかかわらずウェルメイドの娯楽小説の趣きがある。特に結末のつけかたに作者の「計算」が見えすぎるような気がして不満を感じる。優しい結末で作品全体の印象が凡庸なものになってしまった。芝居ならこれでいいのかもしれなけれど。
処女小説の『宗教が往く』のような勢いのある破綻に乏しいのが物足りない感じがする。
著者自身によって映画化が進行中のはず。映画版では映画監督松尾が女優にどこまで厳しく要求していくのかに注目したい。いったい主演女優は誰なんだろう?