閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

仮名手本忠臣蔵 二月大歌舞伎夜の部

夜の部
五段目 山崎街道鉄砲渡しの場
    同 二つ玉の場
六段目 与市兵衛内勘平腹切の場
   早野勘平    菊五郎
   斧定九郎    梅玉
   一文字屋お才  時蔵
   千崎弥五郎   権十郎
   おかや     吉之丞
   不破数右衛門  左團次
   女房お軽    玉三郎

七段目 祇園一力茶屋の場
   大星由良之助  吉右衛門
   遊女お軽    玉三郎
   大星力弥    児太郎
   寺岡平右衛門  仁左衛門

十一段目 高家表門討入りの場
     同 奥庭泉水の場
     同 炭部屋本懐の場
   大星由良之助  吉右衛門
   小林平八郎   歌昇
   竹森喜多八   松江
   磯貝十郎左衛門 種太郎
   大星力弥    児太郎
   高師直     幸右衛門

  • 劇場:東銀座 歌舞伎座
  • 上演時間:4時間30分(休憩30分、10分含む)
  • 評価:☆☆☆☆

五・六段目を見るのは三度目。封建倫理の根本に関わる壮大な復讐劇を構成する核のひとつとして、色恋沙汰ゆえに義士になれず、誤って人を撃ち殺したことにびくびくとおびえ、死人の懐から大金をネコババし、早とちりゆえに切腹するはめになる矮小な人物の物語を置く、「倒錯」的センスの面白さは見えてくるようになった。周縁部を拡大することによって、主筋の大きさを逆説的に浮かび上がらせるというのは歌舞伎・文楽特有といっていい劇作術であるように思う。
しかしだからといって心から五,六段目を楽しめたかというとそれはまだ修行がたらないようで、六段目のテンポの遅さには今日もうつらうつらしてしまう時間がちょくちょくあった。菊五郎の勘平の動きの洗煉に惹きつけられるほか、おかやを演じた吉之丞の細やかな感情表現と動作も印象に残る。
七段目は祇園の遊郭。前段とちがった華やかなあかるさ、遊女や幇間が集団でそろそろと動くさまの視覚的美しさが心地よい。吉右衛門仁左衛門玉三郎の三者のリズム感あるやりとりに惹きつけられる。
十一段目は討入りの場面のスペクタクル。スピードと変化に満ちた立ち回りの面白さを味わう場。わずか一〇数分の間に三つの場で展開するのは歌舞伎ならではの贅沢さ。大団円に向い急速にスピードを増していくような感じで、観客の興奮をもりあげる。「えいえいおー」の勝ち鬨には観客席から大きな拍手がわき上がる。爽快な幕切れである。