閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

演劇は道具だ

宮沢章夫(理論社,2006年)
演劇は道具だ (よりみちパン!セ)
評価:☆☆☆★

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170ページ,上下に空白をたっぷりとったレイアウト,かなり大きめの活字.
漢字にはルビが振ってあるので小学生でも読もうと思えば読むことができる.平易な表現で書かれているのでもしかすると内容の理解もかなりの程度まで可能かもしれない.
演劇ワークショップの際の原稿に手を加えたもののようだ.「みる」「すう,はく」「ふれる」「たつ」という基本的な演劇的動作についての考察を,簡単な作業を通じて深めていくという内容.具体的で手っ取り早い技術論ではなく,演劇的模倣の本質について考えるきっかけを与えるというのを主眼に置いたワークショップを著者は提示しようとしている.「ふれる」の章で紹介されていた3つの「自己紹介ゲーム」は,授業の実践の中でも応用できそうである.

一般的な「自己紹介」がつまらない(たとえ必要であったとしても)のは,各人の「ふれる」ところが,ごく浅い位置にしかないから,というところから宮沢氏は書き始める.以下,彼がこの著作で紹介した三つの自己紹介ゲームの要約である(『演劇は道具だ』75-113ページを参照せよ).
自己紹介を面白く,より有意義なものにするためには,自己紹介の内容が「適度に」深くなるような仕掛けが必要となる.その仕掛けは,参加者の「かたいからだ」(過度に緊張している状態)をほぐすような機能をもっていなければならない.

  • 何周も自己紹介
    • 椅子を円形にならべ,参加者に腰を下ろしてもらう.リーダー格の人から自己紹介をはじめるが,一回の自己紹介では一項目しか言ってはいけない.最初は「私の名前は○○です」といった感じ.紹介が終わると左隣の人が同じように一言自己紹介をする.これを何周も,話者が自分について話すことがなくなってしまうまで徹底的に続ける.
  • うその自己紹介
    • 「うそ」をつくだけ.しかしいかにも本当らしい「うそ」をついてもらう.「ほんとうのことを言ってはならない」「できるだけ,ほんとうらしく話す」がルール.最初に考える時間を五分ほど与える.
    • 「うそ」の自己紹介を聞いた人は,質問しなくてはならない.その質問にももっともらしい答えを返さなくてはならない.うその自己紹介で,うそにリアリティを与えることを考えていく過程は,「演技」の問題につながっていく.
  • 他人を取材して紹介する.
    • 二人組をつくり,片方が片方を取材する.つまり片方の話を聞いてそれをメモに残す.取材時間はたっぷり(30分から一時間)とる.時間が来たら,取材された側と取材した側が交代(組み合わせは変更したほうがよい).
      • 一回目:A→B,C→D,E→F……W→X
      • 二回目:B→C,D→E,F→G……X→A
    • 取材したメモをノートにまとめる.取材した相手をできるだけ魅力的な人物として紹介することを目指す.他者を紹介することは,実は発表者自身の自己表現の表出でもある.
  • 最後は挨拶ゲーム
    • 使っている部屋の一部を舞台のように設定する.舞台に椅子を1脚置く.椅子の向きは観客側に正面には向けない.椅子にひとりが座る.下手側からもう一人がいすに近づき,いすにすわっているAさんに「こんにちは」と声をかけて挨拶してもらう.